縄張り争い④
現代アート部の緊急集会が開かれたのは、決闘の申し込みの翌日のことだった。
「この中で野球の経験がある者は手を上げろ」
挙手したのは岩崎一人。残りの香月、橘は指先一つ動かさなかった。
「なんて体たらくだ。情けない」
「そういう先輩はどうなんですか」
「私か?この繊細な指でバットが握れるとでも?」
ということは、4人中3人が野球未経験だ。相手は年下とはいえ野球少年。すでに勝ち目がなくなった気がする。
「なんや、ウチだけかいな」
「あの、塩井先輩。なんでいきなり野球なんですか」
何の説明もなく野球経験の有無を問われたので、橘は状況を理解していない。公園の使用権を巡って塩井が決闘を申し込んだ経緯を香月が説明すると、橘は「へえ?」と間抜けな声を漏らした。
「そんなの勝てるわけなくない?」
「うん。私もそう思う。でもあの人が勝手に話を進めたんだよ」
「仮に勝負に勝てたとしても、公園にストーンヘンジ置いちゃダメでしょ。撤去されるに決まってるじゃん」
「それもちゃんと説明した。でもあの人聞く耳持たないから」
こういう場合に塩井を止めてくれるのは決まって岩崎だが、なぜか今日は反対意見を言っていない。
「野球かあ、おもろそうやん。中学の時に授業でやったっきりやけど、たまにバッティングセンターは行くんよ。久々に試合もやってみたいわ」
「なんで岩崎先輩まで乗り気なんですか!」
勝負事となるとスポーツマンの血が騒ぐのか。三年生と二年生の間で、綺麗に立場が別れてしまった。
「珍しく君と意見が合ったな。じゃんじゃんホームランを打ってくれ」
「おう、任せとけ。少年どもの心へし折ったるわ。ストーンヘンジとかはなんも興味ないけどな」
最悪だ。二人が手を組んでしまったら、香月と橘では太刀打ちしようがない。この中で一番ひ弱な橘を参加させること自体望ましくないが、辞退できる雰囲気でもなかった。
「残りあと5人。一人はもう目星をつけている」
「誰を誘うん?」
「私たちの天敵だよ。だが身体能力だけは確かだ。あいつを誘わない手はない」




