縄張り争い③
「悪いんだが、この公園をお姉さんに使わせてくれないかな?」
何の用途かは明かさず、公共の場の使用権を小学生から奪おうとする塩井。やっていることが不審者すぎる。通報されるのも時間の問題だ。
「ちょっと先輩、何やってるんですか!ごめんね君たち。この人変なんだ。気にしなくていいから、どうぞ野球続けて」
「変とはなんだ、変とは。公園は読んで字のごとく公の場だ。彼らが野球のために占領していいなら、私にも使う権利はある」
「占領って、そんな不法行為みたいな言い方しないで下さい。この子たちだって、別にほかの子を追い出して野球やってるわけじゃないんですから」
「誰がリーダーだ?手を上げろ。私と直接話をしようじゃないか」
少年たちは顔を見合わせ、やがて視線が一人の子に集中した。
「ほう、君か」
チームメイトの視線を集めたのは、小柄だがしっかりした体格の少年だった。眉毛は太く意志の強そうな雰囲気が漂っている。どこか昭和の雰囲気を感じる子だ。塩井に絡まれて怖かろうに、少年は小さな体で変な女子高生を睨みつけた。
「なんですか。僕たちはただ、ここで練習してるだけです。お姉さんが公園を使いたいなら、向こうの空いてるスペースで遊んでください」
まるで演説をするかのように、一言一句はっきりと発音する少年。ただならぬオーラに塩井がたじろいだ。
「くっ、生意気な。私と君でいくつ年が離れていると思ってる」
「僕は今年で11歳です」
「私は17歳だ。6歳だぞ6歳。私が幼稚園を卒業する頃、君はまだ着床前の精子だ」
「子供相手になんてこと言うんですか!」
「名前を聞いておこうか、少年」
不審者相手に名乗るのは危険だ。学校でもそう教えられているのだろう。少年は躊躇したが、塩井の失礼な態度にカチンときてしまったのか、挑発に乗ってしまった。
「高野です」
「高野君。なるほど、覚えたぞ。では改めて高野君、君に決闘を申し込む」
「決闘?」
「私たちと野球勝負だ。勝ったらこの場所を明け渡せ。帰り道によくここを通っているが、ほぼ毎日君たちが練習で使っているだろう。アクセスも悪いから他の人もあまり来ない。実質君たち専用の野球場みたいになっているこの公園を、私のアトリエにする」
塩井の持ち出した条件は、公園が自治体によって管理されている公共施設だという前提を完全に忘れていた。しかも今、私たちと言ったか?
「先輩、私たちってもしかして、私も含まれてます?」
「なにを当然のことを。野球対決をするには頭数をそろえないといけない。最低でも9人は必要だろう?私と香月と岩崎と橘。これで4人だが、あと5人を集めないと」
勝手に部員全員がチームに入れられている。野球などしたこともないし、バットもボールも握ったことすらなかった。香月をチームに入れたところで戦力にはならないのだが。
「決闘の日は来週。それでいいな、高野君」
頼む高野君、断ってくれ。香月はそう願ったが、高野君は塩井の挑戦を受け入れてしまった。
「いいですよ。僕たちが勝ったら、二度と公園には近づかないこと。練習の邪魔をしないで下さいね」




