縄張り争い②
金属バットが球を打つ音。子供ならではの力任せに出した大声。塩井に手を引かれてやってきた公園では、野球少年たちが練習をしているところだった。
「あの中に知り合いでもいるんですか?」
「子供と馴れ合う趣味はないんだ。私が狙っているのは、ここの土地そのものさ。もったいないと思わないか?この公園の広い敷地を野球なんぞに使うのは」
「思いませんよ。むしろ正しい使い方でしょ」
「納得いかないね。ガキどもが私に場所を明け渡せば、あそこにストーンヘンジを作れるというのに」
それなら野球に使っているほうが100倍マシだ。
「だいたい公園に勝手にもの置いちゃダメでしょ」
「その点は心配ない。よく通るから知っているんだが、この公園はちょっと特殊なんだよ。ほら、ずいぶんと手作り感のある遊具が多いと思わないか?」
確かに一般的な公園に置かれているジャングルジムや鉄棒などに加えて、アニメキャラクターの顔が描かれた木馬など、安っぽいものがかなり混じっている。
「どうやら地元の人たちが遊具を寄付しているらしいんだ。本来なら撤去されるはずだが、子供たちが喜ぶから自治体も暗黙のうちに認めているようでね。あれよあれよと遊具の数が増えていき、今じゃこの有様だ」
「いいことじゃないですか。変な苦情が原因で子供たちの遊び場が減ってるってニュースで見ましたけど、やっぱり小さい子には遊びが必要ですから」
「ならストーンヘンジを置いても構わんだろう?」
「いいですか先輩。ストーンヘンジは遊具じゃない」
「私は前からこの公園に目をつけてたんだよ。有志による遊具の設置が認められているなら、私の作品を置いても黙認されるはず。自治体も文句は言わないさ。問題はあのガキどもだ」
塩井は憎たらしそうに野球少年たちを指さした。
「なんとかしてあいつらを退散させないといけない。野球なんぞにスペースを使い過ぎだ。もっとこじんまりとやればいいものを、我が物顔で占領しているのが気に食わない。私の作品を置くには彼らが邪魔なんだよ」
なんて横暴な人間なんだろう。野球少年たちは見たところ小学校の高学年くらいだ。女子高生である塩井が、私欲を満たすために敵意を向けていい相手ではない。
「まさか交渉するつもりじゃないでしょうね。少年相手にみっともないですよ」
「交渉だと?私がそんな平和的な解決法に出ると思うか」
「まさか暴力…!?」
「香月、君は私をなんだと思ってる。もう一年以上の付き合いだ。私がこれまで暴力に訴えたことがあるかい?」
暴力ではないが、それ以上の実害を及ぼしてきた記憶はある。
「安心してくれ。一滴の血も流さずに、公園を明け渡させる」
塩井はゆっくりと少年たちに近づいていった。彼女の接近に気づいたピッチャーの子が、ぴたりと動きを止めてボールを取り落とした。その顔には恐怖と困惑が浮かんでいる。冷たい表情の塩井は、よく言えば美しいが、悪く言えば怖い。年上の女が冷ややかなオーラを出しながら向かってきたのだから、年端もいかない少年がおびえて当然だ。
「やあ、ガキども」
あまりに礼節を欠いた挨拶に、香月は頭を抱えた。




