縄張り争い①
「ストーンヘンジを作りたいんだが」
塩井の発言を真に受けるのはとっくにやめていたが、思わず聞き返さずにはいられなかった。
「ストーンヘンジって、石を適当に積み重ねたみたいなやつですよね」
「適当とはなんだ。あれはイギリス先史時代の遺跡なんだぞ」
「あ、遺跡なんですか」
「ストーンヘンジは太陽の動きに合わせて緻密な設計がされているんだよ。夏至の朝、そして冬至の夕日はそれぞれ特定の石の間から見えるようになっている。まだ文明も発展していない時代に、よくもまあ当時の人たちはあんなもの作れたもんだ」
「へえ」
あまりに興味のない話なので、香月はスマホをいじりながら雑な相槌を打った。
「私が惹かれているのは、一体なぜストーンヘンジが作られたかということだよ。気にならないか、香月。誰が一体なんの目的であんなものを?」
「別に。昔のイギリスにも、先輩みたいな人がいたんじゃないですか」
思いつきでなんでも作り、作るだけ作って放置。あとから発見した人が一体これはなんだと騒ぎになったことは何度もある。もしかしたらストーンヘンジの発案者と塩井には、血のつながりがあるのかもしれない。
「真相を究明するためには、自分で作ってみるのが一番だと思ってね。だが問題は土地だ。ストーンヘンジを作って設置するための場所がいる。校内に十分なスペースはないし、私の家の庭もさして広くない。どこかいい場所を知らないか?」
「岩崎先輩の家ってお金持ちらしいですから、庭も広いんじゃないですか?」
「どうなんだ岩崎。君の家の庭を貸してくれるか?」
お手洗いから帰ってきた岩崎は、いきなり話の矛先を向けられて困惑の表情を浮かべた。
「なんの話やねん」
「ストーンヘンジを置くための場所を貸してほしい」
「ごめん、全然分からんわ。分からんけど断る」
「なぜだ!」
「お前にうちの庭使わせたら、どーせ変なもん置くに決まってんねん。近所から苦情くるわ」
「変なものではない。ストーンヘンジだ」
「知らんわ。とにかくウチは協力せえへんからな。勝手にやっとけ」
自宅の庭に遺跡もどきを作らせろと言われれば、そうなるのが普通の反応だ。塩井はブーブー文句を言っているが、仮に香月が大豪邸の持ち主だったとしても、塩井からの提案は却下していただろう。どうせろくなことにならないのが目に見えている。
今日は遠回りをして帰ろう。塩井からそう言われて歩かされた駅までのルートは、通常よりも3倍近く時間のかかる回り道だった。
「いつ駅に着くんですか。もうしんどいんですけど」
沈みゆく夕日を見ながら河川敷を歩く二人。高架下にはホームレスの段ボールハウスがあったが、中は留守のようだ。意外としっかりした造りになっており、小窓みたいなものまで付けられている。
「たまにはいいじゃないか。ほら、亀の親子が香月を見てるぞ。なにかくれると思ってるみたいだ」
「先輩じゃないんですから、誰彼構わず餌付けしませんよ」
おそらく塩井は学校の外でも動物にエサをふりまいている。先ほどから、野良猫や小鳥がちょこちょこと後ろをついてきている。この一帯の動物に顔が利く存在なのだろう。
「ちょっと寄り道していいか?」
「え、嫌です。早く帰りたい」
「こっちだ」
人の話などまるで聞こえていない。塩井は香月の手を取ると、川とは反対側の道に降りていった。




