縛り日和④
屋上の階段付近には、不自然に椅子が一つ設置されていた。おそらく四条が持ってきたのだろう。縛りやすいように、ここに岩崎を座らせろという事に違いない。当の四条はどこかに隠れているのか、姿が見えなかった。
「そこに座ってもらえますか?」
まさか後輩に騙されているとは微塵も考えてない岩崎は、何の疑いもなく椅子に腰かけた。
「どんなポーズしたらええん?」
縛りやすいポーズとは言えない。
「普通にしててもらって大丈夫です」
「オッケー。ほな、可愛く描いてや」
岩崎が椅子に腰を落ち着けてからしばらくは、四条が姿を見せなかった。岩崎はできるだけ動かないように、自然なポーズを維持してくれている。申し訳ないので一応本当にスケッチはしておこう。
「なあ香月。ウチが現代アート部入ってしばらく経つけどさあ、大丈夫なんかな、色々」
「結局新入部員も集まってないですしね」
「去年廃部にならへんかっただけでも奇跡やで」
もし人数要件を満たすことができなかったとしても、生徒会長の深川がなんとか裏で手を回していたはずだ。だってあの人、塩井のことが大好きだから。あくまで性的コンテンツとして、だが。
「香月は後悔してへんの?言うたら悪いけど、あんな意味わからん部活に入ったこと」
「してないと言えば嘘になります。青春をドブに捨てたっていう自覚は十分にありますよ。運動部に入ってれば、今頃キラキラした高校生活を送れてたのかなあ」
「ええやん。香月は普通に充実してると思うで。彼氏もおるし」
「まあそうですけど…」
「ウチなんか彼氏できたことないんやから、羨ましいわ」
岩崎の交際経験がゼロというのは意外だった。フリーだと知れば、一体何人の男子生徒が交際を申し込んでくるだろうか。容姿と運動能力、おまけに家庭にも恵まれた優良物件だ。みすみす逃す手はない。
香月との会話に気を取られていた岩崎に、突然魔の手が襲い掛かった。魔の手というか、四条だ。
「岩崎ちゃんゲット!」
「うわ、なにすんねん!」
四条は俊敏な動きと無駄のない動作で岩崎の手を椅子に縛り付けた。経験した香月には分かる。四条による拘束は強力で、いくらもがこうと抜け出すことは不可能だ。
「誰やお前、放せや!」
「どうもー、緊縛クラブの四条です」
岩崎ちゃん、と親し気に呼んでいたので知り合いかと思っていたが、初対面らしい。
「説明になってへん。なんやねん、緊縛クラブって」
「ふふ、岩崎ちゃんが知る必要はないよ。黙って縛られればいいから」
セリフがまるで悪役だ。いや、欲望のまま校内で生徒を緊縛するのは、十分に悪い奴と言えるかもしれない。
「香月、助けて!手が動かせへん!」
「ご苦労様、香月ちゃん。作戦への協力、心から感謝」
「さ、作戦…?」
岩崎の瞳が不安げに揺れた。ああ、心が痛い。グッズのためとはいえ、こんな事やるべきじゃ無かった。
「嘘やんな?ウチを騙したとか、そんなんちゃうやんな…?」
「すみませんでしたぁ!」
椅子に縛られた岩崎の足元で土下座をする香月。屋上で練習していた吹奏楽部が、怪訝そうにその様子を見ていた。




