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縛り日和②

 「きょ、協力って。私に何をさせるつもりなんですか」


 「そんな警戒しないでいいって。リラックスリラックス」


 人の手を縛っておいてリラックスしろとは無理な話だ。


 「岩崎ちゃんをおびき寄せるためのエサになってもらいたいってだけだから」


 「岩崎先輩を騙せってことですか。それならお断りします。ちょっと口は悪いですけど、私の周りじゃ唯一まともな先輩なんですから」

 

 比較対象がひど過ぎることもあって、岩崎は香月にとってただ一人の良心だった。塩井、深川、四条のような人間に囲まれていれば、岩崎が女神のようにさえ見える。


 「もちろんタダでとは言わないよー。香月ちゃん、これが欲しいんでしょ?」


 「そ、それは!」


 四条が目の前でプラプラさせているのは、香月が喉から手が出るほど欲した推しキャラの限定グッズだった。


 「なんで持ってるんですか!」


 「ふふ、秘密」


 「あんなに競争率高かったのに…。もしかして四条先輩も好きなんですか」

 

 「いや全然。ていうか知らないし、このキャラ」

 

 「なら下さいよ!」


 「おっと」


 手の自由を奪われているので、猛獣のように口で奪い取ろうとしたがひらりと躱されてしまった。


 「これが欲しいなら、岩崎ちゃん緊縛作戦に協力してもらうよ」


 「ひ、卑劣な」


 「どうする?やる?もし香月ちゃんがやらないっていうなら、このグッズは後輩にあげちゃおうかな」


 香月の中で激しい葛藤が起きた。岩崎は面倒見がよく、同じ部活の仲間になってまだ数か月だが、上級生として香月を気にかけてくれている。塩井に何かされそうになったら助けてくれるし、相談事に乗ってもらったことも何度かあった。


 だが背に腹は代えられない。


 すみません、岩崎先輩。心の中で精一杯の謝罪をして、香月は頷いた。


 「やりますよ。やればいいんでしょう」


 「さすが、物わかりがいいね。じゃあ屋上に岩崎ちゃんを呼び出してくれるかな?」


 四条が香月の拘束を解いた。かなり強めに縛られていたので、手首にロープの痕が残っている。


 グッズを受け取ろうと差し出した手を、四条がパシンと叩いた。


 「ダメダメ。渡すのは作戦が終わってから」


 「そんなぁ…」


 「香月ちゃんもなかなかいい顔するね。本格的に縛りたくなっちゃう」


 身の危険を感じたので、四条に背を向けて走り出した。岩崎を呼びに行こう。先輩を騙すと思うと心苦しいが、もう引き返すことはできない。


 現代アート部の部室では、岩崎が放課後のおやつタイム中だった。都合のいいことに他の部員はいない。塩井がいれば余計にややこしいことになりそうだったので、まずはほっと一息。


 「岩崎先輩、今ちょっといいですか?」


 「うん?どないしたん?」


 「あのですね…」

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