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猫と袋④

 「塩井。お前なあ、なにやって…」


 部長の迷惑行為を咎める岩崎の言葉は、途中で途切れてしまった。


 「にゃあ」


 「なんやその恰好!」


 猫耳と尻尾を装着した塩井が、一声鳴いた。


 「猫とビニール袋を使った私の大規模アートはどうだ?画期的だろう」


 「いや先にその恰好説明せえや」


 「ん、これか。昨年の文化祭で猫耳メイドカフェをやっていたクラスがあったから、借りてきた。なかなかしっかりした造りだな。尻尾には針金も入っている」

 

 「衣装の説明ちゃうねん。なんでその恰好してるかっていう理由を聞いてんねや」

 

 どうせ塩井のことだ。筋の通った理由があるとは期待できない。


 「そんなの決まってるだろう。猫を使ったアートで、私自身も作品の一部になってるからだよ」

 

 ほら、やっぱり分からない。


 「ごめん、ウチが悪いんかな。お前の言うてること一つも分からへん」


 「君が全面的に悪い」


 「香月。おたくの先輩こんなん言うたはるけど、理解できるか?」


 香月は首を横に振った。


 「まず学校中のビニール袋を回収してきてくださいよ」


 「せっかく完成したんだから、もう少しアートを楽しんでもらいたいな。家中のビニール袋を集めて、猫っぽく見えるように膨らませるのは大変だったんだぞ。ぺしゃんこすぎてもダメだし、膨らませすぎても猫に見えない。20個目あたりからコツが分かってきたが、なかなか骨の折れる作業だった」


 多くの生徒が騙された背景には、塩井の無駄な努力があったらしい。ビニール袋と分かっていれば猫には見えないが、そうと知らなかったら目を欺かれる程度には、妙に生き物っぽい形をしている。


 「本物の猫を連れてくるのも一苦労だったぞ」


 「この子、先輩が?」


 「ビニール袋を設置するだけでは、ただ学校にゴミをばらまいただけだ。この作品の本質は、見間違いと本物の境界をあいまいにすること。そのためには、本物の猫を紛れ込ませる必要がある。エサを使って誘導して、なんとかここまで連れてきたんだよ。最初は力づくで拉致しようとしたが、野良猫は俊敏だな。全然捕まえられなかった」


 「よう見たら、野良猫何匹かおるやんけ」


 「ほんとだ。この子だけじゃない」


 中庭の茂みやグラウンドのほうにも、しっかり四本の足で歩く本物の猫がいた。塩井によって集められた猫たちは、まさか自分が意味不明なアートの一部になっているとは夢にも思わないだろう。


 あっちでにゃあにゃあ、こっちでにゃんにゃん、と声が上がる。


 「にゃおん」

 

 塩井が共鳴した。


 今すぐそのふざけた猫耳と尻尾を引きちぎり、ゴミの片付けをしてこいと言いたいところだが、コスプレ姿の塩井は悔しいことに似合っていた。香月はいつもの癖で、とりあえずシャッターを切った。参考資料。あくまで参考資料だ。


 満足に写真は撮ったので、そろそろ片付けをさせよう。スマホをポケットに仕舞った瞬間、香月の後ろから汚い嗚咽が聞こえてきた。


 「ゔぅぅぅぅ…」


 「ひっ!会長!?」


 声の正体は、生徒会長の深川だった。


 もしや、校内を荒らされたことで怒りが頂点に達しているのだろうか。


 「無理…可愛い…」


 「は?」


 「なんですかあれ。香月さんがやらせたんですか。だとすればグッジョブと言わざるを得ません」


 「違います。私に先輩をコスプレさせる趣味はありません」


 成人漫画家を志す深川は、塩井を性的コンテンツとしか見ていない。猫耳姿にも、なにか心を揺さぶられるものがあったのだろう。眼鏡の奥の目が見開かれ、この光景を網膜に焼き付けようとしているのが嫌でも伝わってきた。

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