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猫と袋③

 その日、学校に猫が大量発生した。10匹や20匹なんてもんじゃない。校庭に、廊下に、そして中庭に。白や茶色、黒い猫までがわんさかと。この異常事態に、生徒たちがパニックになったのは言うまでもない。


 授業を抜け出した生徒たちが、猫の大群を間近で見ようと外に出てきた。香月もその中に混じっていたが、別に猫が見たいとか、興味本位からの行動ではない。犯人のめぼしが付いているから、その犯人を探しに来たのだ。


 ちょうど昇降口から出てきた岩崎と鉢合わせると、彼女は苦い顔をしていた。


 「あいつやろ」

 

 「あいつですね」


 香月たちの間で「あいつ」という呼称が指すのは、塩井しかいない。


 これも塩井のアートの一つなのだろう。猫と思われたそれは、よく見るとビニール袋だった。一昨日の深夜、コンビニでビニール袋を猫と見間違えた塩井は、自らの間違いを認めようとしなかったが、どうやらあの出来事に着想を得てしまったようだ。


 今の状況は、猫の形っぽく膨らんだ大量のビニール袋が校内にばらまかれているという、迷惑極まりないものだ。死体アートの件といい、カマキリの卵の件といい、塩井のアートは必ず周囲を巻き込む。しかも、わりと本気で迷惑な巻き込み方で。


 遠目から見て、猫だと騙された生徒たちが落胆した様子で戻っていく。ただのビニール袋にテンションが上がっていたとなると、心底ばかばかしい気分だろう。


 「レジ袋もタダやない時代に、資源の無駄使いしおって」

 

 「そういえば先輩、コンビニで会ったとき、レジ袋2枚もらってましたよ。絶対1枚で入る量の買い物しかしてないのに」


 「なにに金使ってんねん、あいつ」


 「これ、掃除するの私たちじゃないですか?部長がやったことは、部員にも尻ぬぐいする責任が」


 「あほらし。全部あいつにやらせたらええねん」


 まだ犯人が100%塩井と決まったわけではないが、こんな事をするのはあの人しかいない。


 「岩崎先輩って猫ちゃん好きでしたよね。アート対決の時も、桜の花びらで猫ちゃん作ってましたし」


 「うん、好きやで。だからテンション上がって出てきたのに、ただのゴミの山やんか」


 片づけを放棄した岩崎が昇降口に向かおうとしたとき、にゃあ、という鳴き声が聞こえてきた。


 「ん?今の香月か。猫ちゃんの鳴き真似うまいやん」


 「いや私じゃないです」

 

 今度はもっと高い声で、にゃっ、と声がした。


 「どっからしてんねん、この声」


 「先輩がどこかにスピーカーでも仕込んでるんじゃないですか」


 「そんな手の込んだ事するか?」


 「その辺の茂みとか…、わっ!」


 香月の足元に、白い猫がすり寄ってきた。


 「本物だ!」


 「うわ、猫ちゃんやん。おいでおいで」


 ビニール袋の群れの中に、本物の猫も混ざっていたようだ。仲間がいると勘違いして、おびきよせられてしまったのだろうか。


 「野良猫にしては人馴れしてますね。ほら岩崎先輩、顎撫でても嫌がりませんよ。むしろ気持ちよさそうにしてます」


 「えー、かわいい!ウチにも触らせて」

 

 二人して猫を愛でていると、あいつが現れた。


 「猫とビニールは紙一重。新しいアートの完成だ」


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