部長殺人事件⑦
「入学式で塩井ちゃんを見たときからね、ずっと縛りたいと思ってたんだー」
「お前、2年も前から…」
「あんまり動くと、余計に解けにくくなるよ」
「くぅっ…」
「ね、塩井ちゃん。縛られた気分はどう?」
動けないのをいいことに、塩井の頭を撫でまわす四条。クールビューティで通っている塩井が、まるで罠にかかった動物みたいに扱われている。そのことに部員として、後輩としては怒るべきなのだろうが、自由を奪われた塩井にある種の芸術性を感じないといえば嘘になる。四条の言う緊縛アートが何なのかは知らないが、そこには歪んだ美しさがある気がする。
四条が塩井の背中に指を這わせる。
「うぅぅぅ…」
香月はスマホのシャッターを切った。
「撮ってないで助けろ!」
「失礼ですけど先輩。これって合意の上の緊縛じゃないんですか?」
「なんだって?」
「だって先輩、こうなるまで大人しく縛られたわけでしょう?抵抗しようと思えばできたはず」
「馬鹿か君は。私が縛られて喜ぶマゾヒストだとでも?」
「ドMな塩井ちゃんでも、私は受け入れるよー。いやむしろ、それがいい」
四条は塩井の体を弄ぶふりをしながら、さりげなくロープを食い込ませて、より解けにくくしていた。もうロープをハサミで切らないと、塩井の自由は戻らない。
「私はただ、生徒会室で死体アートの新作を試してただけなんだ。毒殺されたシチュエーションで倒れていたんだが、いつまで経っても誰も来なくてな。夕方の静かな生徒会室で横になっていると、だんだん眠たくなってきたんだ。それでつい眠ってしまったんだよ。そこにタイミング悪くこいつがやってきたんだろう。寝ている私をロープで拘束し、緊縛アートなるものを完成させてしまった。私の死体アートが、四条の緊縛アートで上書きされたんだよ。アーティストとしてこんな屈辱があるか!」
寝込みを襲われて縛られたことではなく、アートを上書きされたことに怒っているらしい。塩井の沸点は理解できない。
「これじゃ縛られてから殺されたのか、殺されてから縛られたのか分からないじゃないか。方向性が無茶苦茶だ。アートとして成立していない」
「殺してから縛る意味はないんじゃないですか?」
「いいや、甘いな香月。世の中には四条のような変態はたくさんいる。物言わぬ姿となった死体を使って、自らの欲求を満たすような人間もいるんだ」
「うえ…」
「だからこそ、私の死体アートをあいまいな表現にされたことに怒っている。おい四条、私の言い分が分かったか!とっととこれを解け!」
「やだー」
「貴様…」
「後輩ちゃんも気に入ってるみたいだよ。さっきからすごい写真撮ってる」
これはあくまで絵を描くための参考資料だ。縛られてる人間をこんないろんな角度から見られることがないので、写真を撮らせてもらっているだけ。決して邪な感情はない。
「縛られてるうちに、癖になってくる人もいるんだってー。塩井ちゃんも目覚めてきた?」
「そんなわけあるか…んぅっ!?」
四条が塩井の耳たぶを噛んだ。
塩井の目に涙が浮かび始めた。これはまずい。超えてはいけない一線を、またぐどころか助走をつけて飛び越えたようなものだ。さすがに写真を撮ってないで、助けなくては。
「あなたたち、いい加減にしなさい」
しかし仲裁に入ったのは香月ではなく、われ関せずの態度を貫いていた深川だった。




