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部長殺人事件⑥

 四条と名乗ったのは、春の野に咲く花のような、温かみのある笑顔をふりまく女子生徒だった。まっすぐ立っているのが苦手らしく、ふらふらと動くたびにお下げ髪が左右に揺れている。


 とても可愛らしい女の子だった。だが、さっき何と言った。聞き間違いでなければ、緊縛クラブと言っていたはずだ。どうか聞き間違いであってくれ。


 香月はおずおずと、四条に聞き返した。


 「あのー、四条さん?失礼ですけど、なにクラブって?」

 

 「ん-?緊縛クラブだよー」


 ああ、やっぱり間違ってなかった。ゆっくりと、脳が溶けそうな甘ったるい声で、しかしハッキリと四条は言った。緊縛クラブと。


 「か、会長。なんですかあの人は」


 「緊縛クラブの四条さんです」


 「いえ、そうではなく。緊縛クラブが何かと聞いているんです」


 深川は生徒会長専用のテーブルに備え付けのキャビネットから、ファイルを取り出した。


 「ここに校内すべての部活動の情報がまとめられています。ええと、緊縛クラブは…。ありました。活動内容、人を縛ること。物理的なほうで。部長は三年の四条明子さん。所属人数は六名。活動実績は特になしですね」


 ぱたん、とファイルを閉じる深川。それで説明になっていると思っているのだろうか。


 「すいません、全然分かりませんでした。特に肝心の活動内容の部分が」


 「それは四条さんから聞いたほうがいいのでは?」


 心底面倒そうに、深川が顎で四条を指す。これ以上関わらないという意思表示か、パソコンを立ち上げ、仕事に着手し始めた。


 「では、私から説明してあげましょー」


 「それより先に、私を縛ったロープをほどけ!」


 塩井が床の上でのたうち回っているが、四条は無視して続ける。


 「緊縛。それは単なる性的嗜好の一分野に留まらないの。もとは罪人を捕らえる手法として使われていたものだけどー、なんか明治時代だっけな。そのへんの時代に、女性を縛ることをエロスなアートとして描いた人がいたんだって」


 アートという言葉に、緊縛された塩井がぴくりと反応した。


 「今の時代でも、緊縛アーティストとして世界的に人気の人もいるんだよー」


 「な、なんか奥が深いんですね」

 

 「まー、私はアートっていうよりも、縛られてる子の肉感とか、そっち方面に美を感じるタイプなんだけど。塩井ちゃんも一度縛ってみたいと思ってたんだー」

 

 「先輩を変な目で見ないでください!」


 塩井に誘惑されて部活を続けている香月が言えた立場ではないが、部外者に緊縛されるのは何かモヤモヤする。


 「先輩、今解いてあげますから。って、かたっ!これどうやって解けばいいんですか」


 複雑に絡み合ったロープは、蜘蛛の巣のような模様を作っていた。どこか一点を引っ張ると、別の場所にロープが食い込む。


 「んぁっ…」


 「変な声出さないでください」


 「香月が乱暴に引っ張るからだ!」


 「ちょっと四条さん。解いてくださいよ!」


 「やだー。もっと塩井ちゃんの縛られた姿、見てたいもん」


 ロープを解こうと必死の香月。生徒会室に響く、塩井の喘ぎ声。それを嬉々として観察する四条。


 深川は、その全員を鬱陶しそうに睨んでいた。


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