部長殺人事件①
一度は塩井に強制キャンセルされた雄大とのデート。あれから日程を調整して、なんとか今日に取り付けた。なんだかんだで、2年生に進級してから雄大と遊ぶ機会も減っていたので、このまま疎遠にならないように気を付けないといけない。
「香月、部室行こ」
現代アート部の主力選手に認定されてしまった橘は、最初こそお得意の引っ込み思案を発揮していたが、妙に自信がついてきたらしい。部活への参加も積極的になってきている。
「ごめん。今日はパス。この前流れちゃったデート、今日行く約束してるから」
「あ、そうなんだ。じゃあまあ、楽しんできて」
橘の小さい背中を見送り、隣のクラスにいる雄大のもとへと向かう。その途中のことだった。
香月のスマホが振動し、着信を告げた。わざわざ通話をかけてくる相手など珍しい。一体誰だろう。
画面に表示されたのは、岩崎のアイコンだった。
「もしもし」
「事件や」
「え?」
岩崎の声は切迫していた。今、事件と言ったか。
「やばいわこれ。全国ニュースになるで」
「落ち着いてください、岩崎先輩。事件ってどういうことですか」
学校内で起きる事件など限られている。まさか人が死ぬような大事件が発生しているはずもないだろう。香月は楽観的にそう考えていたが、岩崎から飛び出した言葉に戦慄した。
「殺人事件や。人が死んどる」
「さっ…」
殺人。その言葉には、あまりに現実味がなかった。自分の周りで起きるはずがない。その思い込みがあったせいで、岩崎の言っている意味がすぐには飲み込めなかった。
「げ、現場はどこですか」
「部室や。現代アート部のな」
よりによってあそこか。確かに校内では目立ちにくい場所であり、人を連れ込んで殺すにはうってつけだが。
「あの、岩崎先輩。部室で死んでるのって誰なんですか」
「あんなとこにおんの、ウチら以外やと1人しかおらへんやろ」
岩崎が一拍置いて言った。
「塩井や」




