悪夢の生徒会⑯
いくら相手が誘拐犯の仲間だといっても、同じ高校に通う上級生。固いもので殴りかかるわけにはいかない。
四条の動きを封じてさえしまえば、あとは誰かが来るのを待てばいい。思い出せ、中学の頃バスケ部で鍛えた瞬発力を。
香月は地面を蹴った勢いで四条に飛び掛かった。
「遅いよー。そんなんじゃ私を捕まえられないなあ」
間延びした喋り方とは対照的に、四条の動きは俊敏だ。一瞬で背後に回り込み、香月の腕を締め上げる。
「うぐっ!」
「さーて、ここから抜けられるかな?」
飛び跳ねたり体をよじったりしても、四条から逃れられる気配がない。運動部に入っていればさぞかし活躍できた人材だろうに、とつくづく思う。
力では四条に勝てない。それならば相手の力を受け流せばいいのだ。香月は先日塩井と見たイルカショーを思い出す。イルカは体をくるりと捻り、水中での旋回や空中での回転を見事にこなしていた。あの要領でやれば…。
香月は全身から力を抜き、イルカになったつもりで体を捻った。
「なっ!」
やった、うまくいった。香月を締め上げていた四条の手から離れ、自由を取り戻す。
「香月ちゃんって、格闘技の心得とかある感じ?」
「いえ、イルカです」
「はーん、どういうこと?」
「あなたに説明する義理はありません」
説明しようにも、イルカです以上の言葉は出てこない。
「押してダメなら引いてみろっていうけど、土壇場でその判断ができるのはただ者じゃないね。縄抜けの技術にも応用できそう。香月ちゃんセンスあるよ。緊縛クラブに入らない?」
「お断りです!」
「そっか、残念!」
今度は四条が飛びかかってくる番だった。まるで力士の立ち合いのごとき勢いに香月は思わず怯んでしまう。
このまま正面から受け止めれば押し倒されて終わりだ。どうすればいい?
ふと拘束された塩井と目が合った瞬間、水族館で見たチンアナゴが脳裏をよぎった。
子供が並んでいるのに、なかなか塩井が順番を譲らずに食い入るように見ていたチンアナゴ。数十匹の個体が全員同じ方向を向いており、統率が取れすぎてて気持ち悪いと思った。
同じ方向。それだ。
香月は向かってくる四条に背を向け、彼女と同じ方向を向く体勢になった。てっきり正面から襲い掛かるつもりだった四条は意表を突かれ、香月の背中に頭から突っ込む。
今だ。
香月は体を横にずらして四条の首をホールドし、チョークスリーパーのような技を決めた。
「うぐぐぐぐぐ…」
「ギブですか、四条さん!」
「ま、まだまだ…」
「このまま締めますよ!レフェリーはいないから誰も止めません。早くギブしたほうが身のためです」
四条は数十秒抵抗したが、さすがに限界が来たようでギブアップした。
「まさか私が…香月ちゃんに負けるとはね…」
「先輩と水族館に行ったおかげですよ。ありがとう、イルカ、チンアナゴ」




