悪夢の生徒会⑮
ふと深川の机を見ると、飲みかけのコーヒーが入ったマグカップが置かれていた。
初めて塩井と一緒に生徒会室に来た日のことを思い出す。部員が集められないなら廃部だと突き放す深川に対して、アートの素晴らしさを見せてやると豪語した塩井が、飲みかけのコーヒーに絵具を混ぜて壁にぶちまけたのだ。
あの時の染みはまだ残っている。そうだ、これだ。
香月は四条に背を向けて走り、マグカップの取っ手を掴んだ。そして中身を、描きかけの原稿に向かってまき散らした。
「ああっ、なんてことを!」
深川の絶叫が響き渡る。
コーヒーがしみ込んだイラストは、キャラクターの顔が分からないくらいぐちゃぐちゃになっていた。
「そんな。渾身の一枚が…」
深川はすっかり戦意を喪失した。これで残るは2人。
「かかってくるっすよ、香月先輩!」
軽やかなステップを踏みながらシャドーパンチを繰り出してくる野村。こんな筋肉質のやつと拳を交えるつもりは毛頭ない。
台無しにされた原稿の前でくず折れている深川に背後から近づき、スカートのホックを外してファスナーを下ろした。
「ちょ、なにやってんすか⁉ダメダメ、深川会長があられもない姿に!」
当の深川は失意のあまり、スカートを脱がされたことに気づいていない。
香月が深川を狙ったのには理由があった。今朝の様子を見るに、野村は深川の事を随分と慕っている。敬愛する深川が辱めを受けていれば、冷静ではいられなくなるはずだ。
狙い通り深川のスカートを拾いに来たところを、馬乗りになって締め上げる。
「ぐぇ!タンマ、タンマ!」
「タンマなんてない。降参すると言え」
「降参、降参っす!」
下着丸出しの状態で、コーヒーまみれの原稿を死んだ目で見つめる深川。その隣に、香月によって倒された野村が横たわる。
「へえ。やるねー、香月ちゃん」
「残りはあなただけです。四条さん」
「言っとくけど、私には小手先の作戦は通用しないよ。失うものなんて何もないんだから」
これが本当に高校生のセリフだろうか。
捕われた塩井を挟んで、香月と四条がじりじりと距離を詰めていく。
「良かったね塩井ちゃん。王子様が助けに来てくれたよ」
「香月ぃ…」
差し込んだ夕日が照らす埃が、塩井を包むように舞う。ただの埃なのに、それはまるで粉雪のように見えた。




