悪夢の生徒会⑭
「せ、せんぱ…」
香月は全身から力が抜けるのを感じた。縛り付けられた塩井の頭には、水族館で買ったクラゲ帽子が乗っかっている。妙にリアルな質感の触手が、露わになった地肌に張り付いていた。まさに深川の描いたイラストの通りだ。
「香月、来ちゃダメだ。ここはやつらの根城。敵はまだ潜んでいる!」
深川と野村以外にもまだ誰か?
いや、なぜ最初に思い至らなかったのだ。塩井を縛り付けているロープは、どれだけ抵抗されても解けないように、むしろ抵抗すれば余計に食い込むようになっている。これは素人にできる芸当ではない。塩井を縛った犯人がここにいるのだ。
そしてそんな事が出来るのは、この高校に一人しかいない。
「やっぱり塩井ちゃんを縛るのは楽しいねー。最高のモデルだよ」
緊縛クラブ部長の四条が、薄汚れたホワイトボードの裏から姿を現した。
さっきからどいつもこいつも、登場の仕方とタイミングが悪役すぎる。
「四条さん、どういうつもりですか!」
「私はただ、深川ちゃんに協力してって頼まれただけだよ。エッチなイラスト描きたいから、塩井ちゃんを実際に縛ってスケッチしたいって」
「なぜ手を貸すんです。こんな事、ダメに決まってるじゃないですか。警察呼びますよ!」
傷害罪か暴行罪か、なんらかの罪には問えそうだ。
「香月ちゃんも知ってるでしょ。深川ちゃんがエッチな漫画描くお仕事してて、私と塩井ちゃんがキャラクターのモデルになってるの。実は私、モデル代としてお金もらってるんだよね。それも結構な金額。だから深川ちゃんの頼みとあれば断れないし、いい作品に仕上げて売り上げが伸びれば、その分私がもらえるお金も増えるかもじゃん」
「お金のために同級生を売るんですか。一緒に野球したり、ホームレス撃退したりした仲なのに」
別に仲間だとは思っていないが、少しは打ち解けたと思っていたのに、どうやら香月の勘違いだったようだ。
「それはそれ、これはこれ。あ、そうだ、深川ちゃんから聞いたよ。2人付き合うことになったんだってねー。ねえ深川ちゃん、これってなんていうんだっけ。恋人の前でいやらしい事されちゃうシチュエーション、なんか名前あったよね?」
「寝取り、というやつですね」
「それそれ。この場合、私が塩井ちゃんを寝取っちゃうってことになるのかな?」
クラゲの触手を霧吹きで湿らせてから、塩井の首に巻き付ける四条。
「くぅ…」
塩井が身じろぎしたが、ぎちぎちに縛られているため逃げられない。
初めてのデートで買った思い出の品を、性的イラストの道具に使われたことに香月は激しい怒りを感じた。
しかし戦況は三対一。深川はともかくとして、野村と四条は武闘派だ。正面からやり合って勝てる気がしない。
「私のことはいいから逃げろ。君まで餌食にされてしまうぞ」
「心配しないで下さい。必ず先輩を助けてみせますから」




