悪夢の生徒会⑬
「そこまでだ!」
生徒会室の扉を開くと同時に、香月は威勢よく叫んだ。中で何が行われているかまだ確認していないが、十中八九塩井絡みだろう。
「遅かったじゃないですか、香月さん。三回目の呼び出しでようやく現れるとは、ずいぶんと暢気ですね」
生徒会長用の一回り大きな椅子にふんぞり返る深川は、いかにも悪の親玉のような空気をまとっている。傍らにはファイティングポーズの野村が控えており、それが余計に悪者感を出していた。
「さっきの放送、どういう意味ですか」
「そんな怖い顔しないで下さい。香月さんに危害を加えるつもりはありませんから」
「会長の横で戦闘態勢の人いるんですけど?」
「自分いつでもいけるっすよ!」
野村の力が人並外れていることは、今朝締め上げられたときに分かっている。まともにやり合って勝てる相手ではない。
「ああ、これは失礼。野村さん、拳を下ろしてください」
深川の指示を受けて、野村が大人しく直立の姿勢になった。ゲームのキャラクター選択画面みたいだ。
「先輩はどこですか」
「はい?」
「先輩が今日、部室に来てないんです。会長がここに閉じ込めてるんでしょう?」
深川は校内放送で、香月の大事な人がとんでもない事になると言っていた。とんでもない事がなにか気になるが、塩井が深川に捕らわれていると見て間違いないだろう。
「はい、その通りです」
深川は悪びれもせずに言った。
「この誘拐犯!先輩を返してください!」
「冷静になりましょう。まずはこちらをご覧ください」
深川がA4サイズの用紙に描かれたイラストを見せてきた。
塩井をモデルとした塩沢というキャラクターが、例によってロープで拘束されている。制服のボタンは外されており、塩井本人は見せたことのないような淫靡な表情を浮かべている。香月の目を引いたのは、塩沢の頭から垂れさがる半透明の触手だ。キャラクターの胸や足にまとわりつき、ねばねばした粘液を滴らせている。
「な、なんですかこれ」
「触手モノはお嫌いですか?」
「意味わかんないですよ!こんなイラストを見せてどうするつもりなんです」
「このシチュエーションは一昨日の水族館デートで、塩井さんが購入していたクラゲ帽子に着想を得たんですよ。香月さんが気持ち悪がっていた、あれです」
触手の質感が妙にリアルなあの帽子か。
「ですが想像だけではイラストに起こすのに限界がありましてね。そこで塩井さん本人を拘束して、触手を垂らしてみようと考えたんです」
「は?」
「実は今朝、塩井さんが例の帽子を持ってきているのを見かけたんですよ。部員の皆さんに自慢するつもりだったんですかね」
「先輩は今どこに!」
「塩井さんならあちらに」
生徒会室は、隣の機材置き場と繋がっている。隣室へ通じる扉を深川が開けて、中に入るよう手で合図を送ってきた。
むわっとした湿気と埃臭さが充満する部屋。その中央に置かれた椅子に、塩井は縛り付けられていた。さっき見たイラストと同じように、ボタンをはだけさせた状態で。




