悪夢の生徒会⑪
「せめて聞くなら、どこまでやったじゃなくて、どこまでいったでしょ!」
「香月さんはこう言っていますが、普通はそうなんですか?」
深川に聞かれた野村は、元気よく首を横に振る。
「いやいや、話を聞いた感じだとだいぶ進展してるっぽいですし、深川会長の聞き方で間違いないっす」
「間違ってるわ!」
朝礼開始のチャイムが鳴った。朝礼の時間は10分。少なくとも残りそれだけの時間を、深川は香月の尋問に使うつもりだ。
「水族館から出た後のお二人はかなりいい雰囲気でした。塩井さんが香月さんに甘えているような…男女カップルで例えるなら香月さんが彼氏、塩井さんが彼女という感じに思えましたね」
「妄想も大概にしてください。っていうか会長の妄想に私を巻き込まないでもらえます?」
深川の漫画に登場するキャラクターは、塩井と四条がモデルになっている。香月は無関係のはずだ。
「メインキャラクターが二人だけでは展開がマンネリ化してしまいますから、物語にスパイスを加えるキャラも必要なんですよ。塩沢と五条、禁断の愛で繋がる関係をかき乱す恋のライバル。香月さんにはぜひそのモデルを演じて頂きたい」
「お断りします!」
「ふん、まあいいでしょう。ペンを握っているのはこちらですから。それで質問の答えは?塩井さんとどこまでやったんですか?」
「答えたほうが身のためっすよ、香月先輩」
「くぅぅ…」
なぜ自分がこんな目に。朝から廊下で後輩に組み伏せられ、先輩から気持ち悪い詰問にあうなんて、これは一体なんの罰だ。
屈みこんだ深川が眼鏡をずらして、猛禽類のように鋭い目で覗き込んでくる。
「キスはしたんですか?」
香月はなにも答えず、深川から顔をそむけた。
「沈黙はイエスと捉えます」
「ちょっ…」
「もう一度聞きますよ。キスは?」
「う…」
「結構です。その顔を見れば答えは分かります。では次の質問」
深川が右手の親指と人差し指で丸を作り、左手の人差し指をその丸の中に差し入れた。
「お答えください」
「ば、馬鹿じゃないですか、あんた!こんなところで朝っぱらからなにを聞いてるんです!」
深川がニタニタと笑い、右手の輪っかに左手の指を出し入れする。生徒会長とか以前に、女子高生として終わっている。まるでセクハラオヤジだ。
「沈黙はイエスと捉えると申しましたが?」
「してない、してないです!」
香月は喉が張り裂けそうなくらいの大声で叫んだ。
「そうですか、残念です。ああ、そろそろ一限開始の時間ですね。今日のところは解放して差し上げます。また何か聞きたいことがあればお呼び出ししますので」
「ぜったい来ませんから!」
深川の指示で野村が力を抜き、香月はようやく自由を取り戻した。
「なーんか香月先輩って、焦ると子供っぽくて可愛いっすよね。塩井先輩もそういうところが気に入ったのかな。あ、すいませんね、乱暴しちゃって。痛くなかったすか?」
「痛かったよ!」
朝礼が終わったあとの教室に入り、橘の後頭部に手刀を叩き込んだ。
「なにすんの!」
「私が襲われてるの見たのに助けず逃げたでしょ。裏切り者」




