悪夢の生徒会⑩
「あばよっ!」
教室までの逃走ルートを思い描き、廊下へ飛び出した。深川の足はきっと速くないから、追いつかれないはずだ。
「私から逃げたところで無駄ですよ。決して逃げきれません。生徒会からは」
なにか意味深なセリフが聞こえたが、気にしている暇はない。教室に着いてしまえばこちらのものだ。
駆け出した香月の足に、突然何かが飛びついてきた。ふくらはぎを両腕でがっしり掴んでくる。
「おっと、逃がさないっすよ!」
「だ、誰だ⁉」
「深川会長、やりました!捕まえましたよ!」
香月に飛び掛かってきたのは、先ほど校門前で深川に涼風を送っていた下級生だった。側面を刈り上げたヘアスタイルはまるでパンクロッカーだ。髪の長さには学校の規定があったが、そういえば短さには上限が無かった気がする。
「ご苦労様です、野村さん」
「うっす!」
野村と呼ばれた一年生に取り押さえられた香月。見た目からしていかにもパワフルだが、見た目以上に力が強い。まくり上げた制服からのぞく腕は筋肉質で、力こぶが盛り上がっている。
「香月さんが逃げることを見越して、伏兵を忍ばせておいて正解でした」
「卑怯な!」
「ご紹介します。今年度から生徒会新メンバーとして加入した、一年生の野村樹さんです」
「野村っす!」
香月の苦手な体育会系だ。とりあえず挨拶しながら体を締め上げるのをやめてもらいたい。
「の、野村さん。放して…」
「それは無理っす。自分は深川会長の指示で動きますんで、放していいと言われるまではここを動きません!」
なんて忠実な部下を持ったんだ、深川は。というか生徒会とはそんな縦社会なのだろうか。
「深川会長からお話は聞いてるっすよ。2年の香月先輩ですよね?3年の塩井先輩と付き合ってるっていう!まあ顔は可愛いですけど、思ったより普通の人っすね。あんな美人に釣り合う人ってどんなのかと思ってました」
「し、失礼な。後輩の教育がなってないんじゃないですか⁉」
「そう…ですよね。香月さんって平均よりちょっと可愛いくらいですもんね」
先輩後輩そろって好き放題言ってくる。こんな生徒会潰れてしまえばいいのに。
「しかし野村さん、この人を邪険に扱ってはいけませんよ。お話したとおり、漫画のネタを引き出してくれる最高の逸材なのですから」
「後輩にもあの漫画の話してるんですか⁉」
「今のところ野村さんにだけ。彼女は私の事を慕って、よく理解してくれています。先月から漫画のアシスタントもしてもらってるんですよ」
「手伝わせてもらって光栄っす」
実はこの会長、あまり仕事していないんじゃないか。生徒会室にこもっている時間の大半は、きっと漫画の執筆に費やしているのだろう。
「あの、そろそろ野村さんをどかしてくれませんか。この子、ずっと私を締め上げてくるんですが」
「では一つだけ質問に答えてください」
野村に組み伏せられて動けない香月と目線を合わせるため、深川が屈む。
「どこまでやったんですか?」




