悪夢の生徒会⑨
朝礼開始5分前の予鈴が鳴ったが、香月はまだ生徒会室に軟禁されていた。
「あの、朝礼が…」
「香月さんの担任の先生には連絡を入れておきました。なので遅刻しても問題ありません」
手回しは万全ということか。よほど水族館デートについての報告会とやらを行いたいらしい。
「まずはデートの感想をお聞きします。正直に言ってください。塩井さんと初めての、2人きりのお出かけはいかがでしたか?」
「いやまあ、楽しかったのは楽しかったですけど」
「それだけ?」
「なにが言いたいんですか」
「もっと、こう…あるでしょう。普段と違う一面が見られたとか、こういう所にドキッとしたとか」
「わりと普段通りでしたけどね」
口を開けば聞いてもいないうんちくを語りだすところも、いちいち引っかかる言い方をしてくるところも、部室にいる時の塩井となんら変わりはなかった。
「香月さんは普段どおりに見えませんでしたが?」
「なっ…どういう意味ですかそれは」
「すごい優越感が顔から出てましたよ。そりゃそうですよね。あんな美しい人を独り占めして連れ歩いてるんですから、どや顔が抑えきれないのも頷けます」
「そんな顔してません!」
「いいえ、してました。証拠の盗撮写真もありますよ」
しれっと盗撮と言った。仮にも生徒会長が。
深川による盗撮写真に映る香月は、確かに口元がにやけていた。自分ではそんなつもりなど無かったのだが、深川の言う通り優越感を覚えていたのだろうか。
「イルカショーでずぶ濡れになった塩井さんは実に見事でした。髪をかき上げた瞬間は、まるで海から現れた人魚のよう。このシーンはぜひ漫画に取り入れたいですね」
香月も見とれてしまったあの瞬間は、バッチリ盗撮コレクションの一枚に入っていた。
「クラゲの帽子を被ってはしゃぐ塩井さんは、いつものクールな雰囲気とは打って変わって無邪気でした。ああいう一面を引き出してくれた香月さんには感謝しかありません。やはり彼女は、香月さんの前でしか見せない表情がたくさんありますね」
「あの、もういいですか?そろそろ教室に行きたいんですけど」
深川の答えを待たずに扉に手をかけた直後、ぞっとするほど冷たい声がした。
「香月さん。水族館を出たあとはどこに行ったんです」
「…へ?」
「私と香月さんの約束では、あくまで水族館デートのつけ回しを許されただけ。水族館を出てしまえば、私はあなたたちを追うことはできませんでした」
変態のくせに律儀だ。
「あの後どこへ?」
眼鏡の奥の瞳がギラリと光る。
「そ、それは会長には関係ないです」
「答えてください。さもなくば放課後までここに閉じ込めます」
「会長だって授業出ないとダメでしょ!」
「授業なんてクソくらえ」
なんて言葉遣い。これがわが校の生徒の頂点に立つ人間なのか。
手はすでに扉にかかっている。扉を開けて廊下に出て、全力疾走すれば逃げ切れる可能性が高い。教室にさえ飛び込んでしまえば、さすがに深川も仲までは追ってこないだろう。いや来るかもしれないが、他の生徒や先生の目があるので下手な真似はできないはず。
いちかばちか、やるしかない。




