悪夢の生徒会⑧
土曜の水族館デートで張りつめていた緊張の糸が切れ、日曜日は朝から晩までベッドの上で転がって過ごした。朝ご飯を食べて寝る。昼ご飯を食べてまた寝る。そして夜ご飯を食べて眠り、月曜の朝を迎えた。
気付けば季節は7月。セミの声は聞こえるのに、姿はどこにも見当たらない。できるだけ日陰を選んで通学路を歩こうとしたが、同じことを考える生徒たちで、陰になっている部分はぎゅうぎゅう詰めだった。
「あっつぅ…」
早くクーラーの効いた教室に入りたい。私より10歳ほど年の離れた世代が学生のころは、まだ学校にクーラーがなかったという話を聞いたことがある。日本の気温が年々上がっているとはいえ、クーラーなしは考えられない。
「おはようございます、香月さん」
「あ、会長。おはようございます。朝からお仕事ですか」
校門の前に立ち、生徒指導の教師とともに挨拶運動兼身だしなみチェックを行う深川。暑いなかご苦労様と言おうとしたが、右手に日傘、左手にハンディファン。後輩の生徒がバケツに入った氷水を地面に置き、うちわで涼しい風を深川に送っているのを見て、労うのはやめた。
「後輩になにさせてるんですか。かわいそうに」
「私が頼んだのではありません。この子が勝手にやっているんです」
健気にうちわを振る生徒に、香月は哀れみの情を抱いた。
会長に憧れを抱いているのか知らないけれど、深川という人間はただの変態だよ、と教えてあげたい。もし深川が同級生をモデルにエロ漫画を描いていると知ったら、この子はどんな顔をするのだろう。
昇降口へ向かう香月の背中に深川が声をかけてきた。
「待ってください香月さん。お話があります」
やはり呼び止められたか。なんとなく分かってはいたが。
「土曜のデートの件ですね?」
「素晴らしい一日でした。塩井さんの可愛い表情からお茶目なところ。そして香月さんに愛を囁くシーンまで、たっぷりと堪能させて頂きました」
「そんなシーンなかったです!」
「隠しても無駄です。すべて見ていましたから。つきましては今後の漫画のネタにするため報告会を行いたいのですが、朝礼まで時間ありますか?」
「あー、すいません、忙しくて」
「のんびり登校しておいて忙しいは通じません。では生徒会室に行きましょうか」
「うげっ…」
なんだ報告会とは。香月目線で見たあの日の塩井の行動を、つまびらかに話せとでもいうのか。
誰か助けてくれないかと周囲を見回すと、ちょうど教室のほうから橘が歩いてくるところだった。
「助けて橘!会長に連行される!」
橘は一瞬目を合わせたが、香月の隣に深川がいることを認めると、気配を消して去っていった。
「薄情者!」




