悪夢の生徒会⑦
水族館を回るのにかかった時間は、せいぜい3時間ほどだった。最後にお土産コーナーに立ち寄り、特に買うつもりはないぬいぐるみやお菓子を見て回る。テーマパークのキャラクターグッズならまだしも、水族館オリジナルのカチューシャなどは付けて外を歩きにくい。
特に気持ち悪かったのは、触手の長いクラゲを模した帽子だった。頭に被ると、触手がだらりと肩あたりまで垂れてくる。こんな悪趣味なグッズ、誰が買うんだろう。
「見ろ香月。素敵な帽子を見つけたぞ」
いた。塩井がクラゲ帽子を被って、自らもクラゲのようにひらひらと売り場を漂っている。
「うっわ…、それ買うんですか?」
「この水族館の商品開発担当はセンスがいいな。私も見習わないといけない」
「それ絶対毒クラゲですよね」
「綺麗なバラには棘がある。綺麗なクラゲには毒があるのさ」
触手の部分が妙にリアルに作られており、見ているだけで肌がヒリヒリしてくる。小さいころクラゲに刺された時の痛みがよみがえってきた気がする。
「せっかくだからお揃いにしようか」
「ぜったい嫌です!」
「ふむ。それなら香月にはこれを」
塩井が香月の頭に被せてきたのは、シロクマの耳をイメージしたカチューシャだった。
「いらないですよ。どこで付けるんですか」
塩井がふっと笑い、売り場にある姿見の前に香月を連れて行った。2人で並んで立ち、鏡に映る自分たちの姿と向かい合う。
「可愛いじゃないか、香月」
「は⁉」
あまりのストレートな物言いに焦り、香月は慌ててカチューシャを外そうとした。
「そのまま付けてろ。記念に写真を撮ろうじゃないか」
気を利かせた店員が塩井のスマホで撮影してくれた。知らない人から見て、一体どういう関係だと思われているのだろうか。
「これ買います。お会計は2人まとめて」
「い、いらないですって!」
「ダメだ、買う。私が君に付けてほしいんだよ」
レジを打つ店員がニヤニヤしている。
こんな状況、深川には見られたくない。どうせどこかに潜んでいるのだろうと視線を巡らせると、売り場の隅のほうでお菓子を物色しているフリをしながら、じっとこちらを凝視していた。
頭からクラゲの触手を垂らした塩井は、水族館の出口に向かうまでの間も注目を集めていた。夜道で出会ったら、きっと妖怪の類だと勘違いしてしまうだろう。




