悪夢の生徒会⑥
水浸しの塩井を乾かすため、屋外の展示コーナーに移動した。ムシムシするのは不快だが、今日は日差しが強くて助かる。これならすぐに乾燥するだろう。
「冷房の効いた室内にいたほうがすぐ乾くんじゃないのか」
「びしょ濡れで冷たい風浴びたら風邪ひいちゃうでしょうが」
「しかし暑い。暑すぎる。…おや香月、そこにソフトクリームが売っているな」
「…買ってきてほしいんですか?」
「スマートじゃないな。こういう時は黙って買いに行ってくれるのが恋人というものだろう?」
もう少し素直に頼めないものか。
塩井からお金を受け取り、アイスクリームを売っているワゴンへと向かう。
「抹茶。抹茶がいい!」
ちゃっかり日陰に避難した塩井が、涼しいところから叫んできた。
ワゴンと塩井までの距離はおよそ10メートルほどだが、急がないと溶けてしまいそうだ。香月は購入したアイスクリームを両手に持って走った。
「はいお待たせしました」
「ご苦労」
香月から抹茶ソフトを受け取った塩井は、うずまきのてっぺんに齧り付いた。
「水族館が片手間でやってるクオリティにしては上出来だ」
「素直に美味しいって言えばいいのに」
香月が自分用に買ってきたバニラアイスを、塩井がじっと見つめてくる。
「なんすか」
「君は探求心に欠ける人間だな。数あるフレーバーの中で、あえてバニラを選ぶ人ほどつまらない人生を送りそうだ」
「抹茶だって定番でしょ」
「いいや、抹茶は店によって結構味が変わるんだ。だがバニラはどこで食べてもバニラ。代わり映えのしない味じゃないか」
「うるさいなあ。黙って食べてくださいよ」
香月はバニラを一口口に含んで、「ん!」と驚きの声を漏らした。
「これすっごい濃厚で美味しい!なんかいい牛乳使ってるって売り場に書いてあったんですよ。ほかのフレーバーよりちょっと高めなだけあるなあ」
塩井が食べている抹茶味は250円。香月の買ったバニラは限定品で、320円だった。
「…所詮バニラだろ?」
そういいつつ塩井は気になっている様子で、チラチラと見てくる。
「先輩は250円の抹茶で満足ですか、そうですか」
2口目を食べようと口を開けたとき、塩井が身を乗り出して香月のソフトクリームをぺろりと舐めた。
「ちょっと!私のバニラ!」
口の周りについた白いクリームを舐めとりながら、塩井がゆっくりと頷く。
「ふむ、確かに悪くないな」
舌を唇に這わせるその動きが妙に艶めかしく、香月は思わずバニラアイスを取り落としそうになる。
「じゃ、じゃあ私にも抹茶を一口…」
「250円の安物だと馬鹿にしていただろ。ダメだ。あげない」
塩井は抹茶ソフトを守るようにして身を丸め、一人で完食してしまった。




