悪夢の生徒会⑤
ショーが始まると、飼育員のお姉さんとイルカのコンビが意気揚々と現れ、目を見張る様なパフォーマンスの数々を見せてくれた。
「イルカってあんなに飛ぶんですね」
「ますます豚から遠ざかっていくな」
「お姉さんとのコンビネーションも抜群じゃないですか。すごいなあ」
「イルカは高い知性を持っているから、人間の言葉をある程度理解できるらしい。言葉の意味そのものは分からなくても、脳内で記号と音を関連付けて覚えることができるんだよ。犬がお座りと聞いて、あのポーズをするみたいにな」
「ふーん」
塩井の披露する知識は、どれも知らなくても損しないものばかりだ。どうせ聞いたところで明日には忘れているので、適当に聞き流して香月はショーに集中した。
イルカがプールの手前にやってきて、まるで挨拶をするみたいにキュイキュイ鳴きながらヒレを振る。
「え、かわいい!今目が合いましたよ!」
「あの瞳じゃどこ見てるか分からんだろう。顔に対して目が小さいから、よく見るとあまり可愛くないな」
「なんでいちいち興ざめするようなことを…」
塩井の悪意が伝わったのか、イルカが客席に向かって水しぶきを上げた。濡れにくそうな真ん中あたりの席にいたのに、ちょうど塩井を狙ったかのように水が飛んでくる。
「ひゃん⁉」
隣の香月はあまり濡れずに済んだ。見事なコントロールだ。
「ほら余計なこと言うから」
「馬鹿な!言葉は理解できないはずだ!」
「悪口だけは伝わるんじゃないですか?」
塩井の頭はずぶぬれになり、前髪が額にべっとり貼りついている。香月が同じ状態になれば目も当てられない有様だが、塩井ならかえってそれが艶っぽく見えるのだから羨ましい。
「先輩濡れたがってたし、ちょうど良かったですね」
「なんか違う。狙って水をかけられるのは実に腹立たしい」
髪から水をぽたぽた滴らせながら、塩井が恨みのこもった声で呟く。
「香月、なにか拭くものをくれ」
「はいはい。このタオル使ってください」
髪と顔をタオルで拭き、前髪をかき上げる塩井。普段は隠れている額が露わになったことで、より一層整った顔立ちが浮き彫りになる。近くに座っていた男性客は、イルカよりも塩井に視線を奪われていた。
輪っかくぐりやボール遊びを披露するイルカを、塩井はつまらなそうな表情で見つめている。
「ふん、あのくらいの芸当なら私もできる」
「水かけられたからってイルカに怒らないでくださいよ」
あと多分輪っかくぐりは塩井にはできない。
「楽な商売だな。キュイキュイ鳴いて愛想を振りまき、誰でもできる芸当を披露していれば客が喜ぶんだから」
再びプール手前にやってきたイルカが、塩井だけを狙って水をかけてきた。
「ぶはっ⁉」
「賢いイルカだなあ」
「香月ぃ…、もうここ嫌だ。出る…」
まるで塩井自身が全身プールに浸かったかのように濡れ鼠になっていた。




