悪夢の生徒会②
「肖像権とかほら、色々危ういんじゃないですか?一応先輩には言っておいたほうが…」
「私から言って嫌われたくありません。できれば香月さんからお願いしたいです」
「後ろめたいならはじめから描かないでくださいよ、そんな漫画!そもそもどんな内容なんですか!」
「原本がここに」
深川が引き出しを開け、漫画の原稿を取り出した。
「主人公は塩沢舞子といいます。クールで高嶺の花の彼女には秘密があるのです。緊縛が趣味の同級生、五条とは幼馴染なのですが、塩沢は五条の趣味を知らないまま高校生になりました。ですが五条はずっと、幼いころから塩沢を縛りたいという欲求を抑えて生きてきたのです。長い間押さえ込んできた衝動が高校2年生の夏、ついに解き放たれる。放課後の体育倉庫に塩沢を呼び出し、ロープで彼女の体を緊縛する五条。はじめは抵抗していた塩沢は、親友だと思っていた相手から支配されることに徐々に快感を覚え始めるんです。そこから始まる禁断の主従関係。もう友達には戻れない。塩沢はクールビューティーの仮面をかぶりながら、裏ではご主人様に尻尾を振る雌犬と化してしまう。そんな2人の関係を描いた、青春ラブストーリーです」
「青春…?ラブストーリー…?」
自分の知っている青春とはずいぶんと違う。でも大賞を取ったのだから、作品としては優れた点があるのだろう。
「この塩沢って主人公のモデルが先輩なんですよね」
「そっくりに描けたと自負しています」
「怖いくらいに似てますよ。それで友達の五条っていうのは、あの人ですよね」
「名前からもお察しの通り、緊縛クラブの四条さんです。ああ、四条さんにはモデルになってもらう際に許可は取っています。快くオーケーしてくれましたよ」
ならば知らないのは塩井だけだ。本人のあずかり知らぬところでエロ漫画の主人公にされ、あろうことか商業誌で連載されるとは。
「今からでも先輩に報告だけでもしましょうよ。あとでばれたら怒られますって」
「ですからそれを伝える仕事を香月さんにお任せしたくて」
「嫌です!描いた本人が責任もって話してください。それに先輩をこんなふうに扱うなんて、私ちょっと怒ってるんですよ」
「なぜですか。別に香月さんが怒るようなことは何もないでしょう。もし塩井さんに恋人がいたとして、彼氏が怒鳴りこんでくるとかなら分かりますが」
恋人、という単語に反応して香月が一瞬目をそらしたのを、深川は見逃さなかった。眼鏡の奥の目がすっと細められる。
「塩井さんって恋人、いるんですかね」
「さ、さあ…?」
「先ほどの失言をお詫びします。彼氏と決めつけるのはよくないですね。そう、彼女でもいいわけですから」
深川がじりじりとにじり寄ってくる。これが全校生徒の頂点に立つ人間の圧。
「香月さん」
「な、なんすか」
「そういうことですか」
「だから何の話ですか」
「なるほどなるほど。これは好都合」
深川が眼鏡をはずしてレンズを拭きながら、不敵な笑みを浮かべた。
「次のデートはいつですか?」
「なっ…私まだ何も言ってませんよね!」
「分かってます。で、いつですか。今週?来週?」
すべてお見通しだと言わんばかりの言い草だ。いや実際見通されているのだが。
「そんな警戒しないで下さい。日付と場所さえ教えて頂ければ、塩井さんにはばれないようにこっそり後をつけていくだけですから」
「一体何の目的で!」
「漫画のネタ集めですよ。塩沢というキャラクターを深堀するためには、モデルである塩井さんをよく知らないといけません。学校では見せない素の姿をぜひ観察させて頂きたい。デートの邪魔はしないと約束します。どうかこの通り!」
なんて綺麗な角度のお辞儀だ。高級ホテルのスタッフのような美しい所作で頭を下げられてしまえば、無下に断ることもできない。しかも相手は仮にも生徒会長だ。
「…次の土曜、水族館で」




