悪夢の生徒会①
校内放送なんてまともに耳を傾けるものじゃない。品行方正、少なくとも悪目立ちすることは避けてきたので、放送で呼び出されることもあるわけがないと香月は高を括っていた。
「呼ばれてるよ、香月」
だから橘にそう言われても、何のことだか分からなかった。
「呼ばれてるって誰に」
橘が教室のスピーカーを指さす。
『繰り返します。2年1組の香月さん。至急生徒会室までお越しください』
スピーカーから流れているのは、生徒会長の深川の声だった。
「なんかやらかしたの?」
「いやいや、全然!呼び出される意味分かんないし」
生徒会長からの名指しに、教室中の視線が香月に集まった。
「とりあえず行ってきなよ」
「やだ怖い。一緒に着いてきてよ」
「あいにく私の昼休みは忙しくて。トリックアートの新作の研究で」
嘘だ。橘は面倒ごとに巻き込まれたくないだけに違いない。
遠ざかっていく薄情者の後姿を見送りながら、香月は重い足取りで生徒会室へ向かう。
ノックを3回すると、「どうぞ」と中から深川の声が聞こえてきた。
「なんですか会長。校内放送で呼び出しとかやめてくださいよ!めちゃくちゃ恥ずかしかったんですからね」
「まあまあ、座ってください。お茶とお菓子を用意してます」
紅茶とケーキでも出してきそうな雰囲気のある深川だが、実際に出てきたのはペットボトルの麦茶と、お徳用パックからいくつか抜き出した安いスナック菓子だった。
「今回お呼びしたのは他でもありません。香月さんに報告したいことがありまして」
「私に?」
深川が業務用のノートパソコンをくるりとこちらへ向けた。画面に表示されていたのは、出版社が主催している漫画コンテストの結果表だ。
金色の文字で大賞、と書かれたすぐ下には、見覚えのあるイラストが掲載されている。脱ぎかけのブラウスから除く純白の下着。キャラクターの凛とした表情を歪めているのは、その体を縛るロープ。そしてキャラクターの顔は、どう見ても塩井をモデルにしている。
「これ、前に会長が描いてた漫画じゃないですか!」
「ありがたいことに大賞を頂きました」
「噓でしょ…?」
「ああ、もちろん少年誌に載る作品じゃありませんよ。青年向けコミック雑誌での連載が決まったんです」
人物を描くのは苦手だと言っていたが、あれからよほど練習したのだろう。塩井の特徴を完璧に捉えて二次元に落とし込んでいる。ロープで縛られているのは、緊縛クラブの四条が塩井を縛った場面に着想を得ているようだ。
イラストの少女は目に涙を浮かべており、後ろ手に縛られたロープを外そうともがいている、その微細な動きまで伝わってくる。とんでもない画力だ。
「これも香月さんのおかげです」
「私なにもしてませんけど」
「香月さんが現代アート部に入ってくれたから、塩井さんの色んな表情が見られるようになったんですよ。彼女、一年生の時はまるで彫刻のように眉一つ動かさない人でしたから。今の塩井さんは本当に表情豊かになったと思います」
そう言われるとなんだか照れくさくなる。だがそれとこれとは話が別だ。
「これ先輩には許可取ったんですか?」
深川がバンと机を叩いて立ち上がる。
「取れると思いますか!?なんて言えばいいんです。あなたをモデルにエロ漫画を描かせてくださいと?そんな事、私に言えるはずがありません」
「言えないことをやらないでくださいよ」
「もう連載決まったんだからこっちのもんですよ」
深川の勝ち誇った表情は決して全校集会で見せることのない、実に品のないものだった。




