バカと部長は高いところが好き⑯
帰りの電車で起きていたのは香月と橘だけだった。帰宅ラッシュで混み合う車内で、残りの4人はすやすやと寝息を立てている。
「私たちも年取ったね。一日遊んだだけでこんなに疲れちゃうなんて」
「小学生のころに戻りたい。体力が有り余ってたあの頃に」
「あと5年もしたらもっと衰えるんだろうね」
「人生のピークは18歳だっていうし、私たちはもうすぐ全盛期を過ぎるよ」
「いやだぁ、老けたくない」
6人の中で最も若い2人が将来を憂いていると、塩井が一瞬だけ目を覚ました。そしてすぐに瞼を閉じ、隣の岩崎にもたれかかる。起きている時なら塩井の頭を叩きそうなものだが、岩崎もすっかり夢の中だ。
「ビジュいい人どうしが寄り添って寝てると、なんだか画になるなあ」
香月はスマホで2人の写真を撮影した。
「ねえ香月、ちょっと気になってたんだけどさ」
「うん?」
「塩井先輩となにかあった?」
香月は何も答えず、電車内の宙吊り広告を見上げた。
「香月ってば」
「なにもないよ。なにも」
「嘘だあ」
「ほんと、なんでもないから」
観覧車の中で交わした会話を思い出してみれば、あれは十分に告白と捉えられる。現に塩井もそう受け取っていたし、雄大に別れ話を切り出す予定も立ってしまった。
「…当てていい?」
「言ってみな」
「2人付き合うことになったでしょ」
ふう、と香月は息を吐き、座席に沈み込む。
「図星だ」
「違う。いや違わないけど、違う」
「どっちだよ」
「確かにそんな感じの方向では進んでるけど。でもまだ正式に決まったわけじゃないというか…」
「ふーん、私はいいと思うよ。香月が先輩のことを好きなのは前から分かってたし。香月が塩井先輩を見る目と、他の人を見る目は全然違う。自分では分かってないかもだけど、香月って結構なんでも顔に出てるよ」
はっきり指摘されると顔から火が出るほど恥ずかしい。自分はポーカーフェイスなほうだと思っていたのに。
「どっちから告白したの?」
言いたくないので黙っていると、橘が眠っている塩井を指さして首を傾げた。香月はフルフルと首を横に振る。橘の指が香月に移動してきたので、観念して頷いた。
「ほう、これはこれは面白い」
「先輩みたいな喋り方やめて」
「いやー、そっか。香月のほうからねえ。やるじゃん、見直した」
「もうこの話はいいでしょ。終わり終わり!私も寝るから、駅に着いたら起こして」
「私も寝ちゃったらどうすんの。全滅だよ」
「あとは任せた」
香月はゆっくりと目を閉じ、橘の方に顔をもたせかけた。




