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バカと部長は高いところが好き⑭

 30分は待たせた挙句、運転再開のアナウンスもなく観覧車が動き始めた。急ブレーキをかけたような強い衝撃のあと、ゆっくりと下降していく。


 塩井の頬をぶった勢いで気持ちを吐露してから、車内には気まずい空気が流れていた。香月はできるだけ遠くを見つめて、咳払いで沈黙を埋める。一方で塩井がぴたりと喋らなくなったのは、おそらく吐き気が限界だからという理由だろう。


 今にも逆流しそうな胃の中身を、唾液を飲み込んで押し戻そうとする姿が痛ましいが、香月にしてやれることは何もない。無事に地上に戻れるのを待つだけだ。


 永遠のような10分が過ぎ、ついに2人を乗せた観覧車の扉が開いた。閉園間際で疲れ気味のスタッフが「お帰りなさい」と低い声で言う。

  

 塩井はスタッフには目もくれず、ゾンビのような足取りでトイレへと消えていった。


 待っている間にレモン炭酸水を購入し、蒸し暑い観覧車に閉じ込められて乾いた喉を潤す。


 「あーあー、言っちゃったなあ」


 あれはどう捉えても告白。一緒になれたら幸せ、などと、よく恥ずかしげもなく言えたものだ。夜の観覧車で、おまけに花火も上がっているというシチュエーションのせいで、妙な気を起こしてしまったと後悔した。


 他のメンバーから、既に出口に集合しているとメッセージが入っていた。間もなく閉園時間なので急がないと。


 「…お待たせ」


 戻ってきた塩井の顔色は多少マシになっていたが、心なしか頬がげっそりとしている。


 「すっきりしました?」


 「出そうで出なかった」

 

 「ああ、それ一番しんどいやつ」


 塩井は観覧車を恨めし気に見上げた。


 「おんぼろ遊園地め。ろくにメンテナンスをしてないから、あんな気持ち悪い揺れ方をするんだ」

 

 「はいはい、行きますよ。みんなもう出口にいるんですって」


 「それ私にも一口くれないか」


 まだ半分以上残っているレモン炭酸水を渡すと、塩井は一気に中身を空にした。


 「あっ、ちょっと!」


 「すまん。ちょうど爽やかな飲み物が飲みたい気分だったんだ。おかげでだいぶ良くなったよ」


 空のペットボトルをすぐ近くのゴミ箱に投げ入れる塩井。ペットボトルはゴミ箱のふちに当たり、ころころと地面に転がった。


 「普通今の距離で外します?」


 「酔ってるせいだ」


 香月は塩井の代わりにペットボトルを拾い上げ、ゴミ箱にシュートした。


 「ここから出口まで結構距離ありますけど、自分で歩けますよね」


 「おんぶ」


 「私より背が高い人は背負えません」


 「せめて肩を貸してくれ。眩暈がする」


 人のいなくなった夜の遊園地は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。園内の飲食店はすべて閉まっており、明かりも消えている。黄金色に光るメリーゴーランドでは誰も背中に乗せていない馬たちが、上へ下へと規則的に動いていた。



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