バカと部長は高いところが好き⑫
「なにを動揺してる。この前も一緒のベッドで寝たばかりじゃないか」
「あ、あれは不可抗力といいますか…」
「今度は手土産の一つでも持っていくよ。おや、見てみろ香月。花火だ」
夏祭りシーズンにはまだ早いが、どーんという地響きのような音とともに色とりどりの花火が打ちあがった。川を挟んだ向こう側、香月もよく知らない遠くの街のほうからだ。音を聞いた時は園内のイベントかと思ったが、老朽化した遊園地に花火を打ち上げる予算などあるはずもない。
観覧車の中から花火を見るのは初めてで、普段より高い位置にいるせいで花火との距離が近くに感じた。
「玉の座りがいいな」
「え、なに?玉?」
「それに綺麗な盆だ」
「ぼ、盆?」
「花火には正式な褒め方があるのを知らないのか?」
「知るわけないでしょうよ。普通に綺麗でいいじゃないですか。あ、でもあれなら知ってますよ。たまやー、ってやつ」
「凡人め」
そもそも花火の褒め方ってなんだ。
「私は花火鑑賞士の資格を取っているんだ。花火は職人が作った芸術品。最大限のリスペクトをこめて褒めるには、相応の知識がないといけない」
「はあ、そうですか」
塩井に惚れてしまってから忘れかけていたが、この人は元来面倒くさいのだと思い出した。やたらうんちくを語りたがるし、こちらが興味あるなし関係なく価値観を押し付けてくる。
「今年の夏は現代アート部みんなで夏合宿をやるんだが…」
「なにそれ聞いてない」
「今決めた。せっかくだから花火大会も開こうじゃないか。それまでに花火の褒め方を勉強しておくように」
また変な課題を課されてしまった。仮にそれを学んだとして、一生のうちに使う機会が来るのだろうか。
「なんだか花火の音って心臓に響きますよね。それにどーんっていう音も心臓の鼓動みたい。まるで夜空が生きているみたいな」
「急にどうしたんだ。香月がポエミーな事を言い出すとちょっと怖い」
夜の観覧車で2人きり。そして花火とくれば少し感傷的な気分になっても仕方がないだろう。いつも変なことばかり言っている塩井にドン引きされる謂れはない。
「まったく調子が狂うな。それにしても、全然観覧車が動かないじゃないか。もう停止して20分は経つぞ」
「結構やばいトラブルなんですかね」
「朝までここに取り残されるかもな」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ!先輩、あれ、先輩?」
塩井が目を閉じて座席に沈み込んだ。
「ちょっと、気分でも悪いんですか?」




