バカと部長は高いところが好き⑧
塩井にぴったりと引っ付いた岩崎は、お化け屋敷の仕掛けが作動するたびにか細い悲鳴を上げていた。これが元サッカー部のエースで、非公式ファンクラブまで作られている人間の姿なのだろうか。
ようやく出口に差し掛かって外の光が見えてくると、岩崎は塩井から離れて全力で駆けだした。
「散々甘えておいてお礼もなしか!」
「アホ!誰がお前に甘えたって?」
走りながら振り向き、いたずらっぽく舌を出す岩崎。
「岩崎先輩、前、前!」
「え?」
お化け屋敷はまだ終わりではなかった。出口の手前に設置された最後の仕掛けが作動し、グロテスクな見た目の妖怪が岩崎に襲いかかる。
「あっ…ひぃ…」
腰を抜かして尻もちをついた岩崎を、塩井があえて跨いでいった。
「もう助けんぞ、この恩知らずめ。そこで妖怪と仲良くしていろ」
「あそこに放置してたら他のお客さんの邪魔になりますよ」
「放っておけ。行くぞ香月」
塩井に腕を引っ張られ、お化け屋敷の外へ出る。数十分ぶりの日光が眩しい。
最後尾を歩いていた宇崎と前田が出てきたが、まだ岩崎の姿が見えない。
「あれ、先生。岩崎先輩を見ませんでしたか?」
「あー、さっき出口のところで見たような」
「なんかブルブル震えてたね。子犬みたいで可愛かった」
この2人、本当に自分たちの世界に入り込み過ぎだ。仮にも生徒が怯えて腰を抜かしているのに、助けもせずに放ってくるとは。
「まあそのうち出てくるだろ。そこのワゴンでアイスでも買って待っていよう」
岩崎が中で助けを待っているかもしれないのに、塩井はアイスを買いに行ってしまった。別に奢ってくれると期待していなかったが、戻ってきた塩井の手には一人分のアイスしか握られていなかった。
「あ、美味しそう」
「一口いるか?」
「いいんですか」
「一口だぞ、一口」
お言葉に甘えて、香月はアイスの先端を齧った。爽やかなソーダの風味が口のなかに広がる。
「おいしい」
「どれ、私も頂こう」
香月の歯型がついた部分を塩井が舐めた。なにもそこから口をつけなくてもいいのに。
塩井がアイスを完食したのとほぼ同じタイミングで、顔を真っ青にした岩崎がようやく出てきた。
「なんで…だれもっ…助けに来いひんねん!」
「遅い。待ちくたびれたぞ」
「ウチが動けへんようになったん見てたやろ!ほんで先生らも、一瞬こっち見たくせにスルーするし!」
「楽しんでるんだなあ、と思って」
「ねー」
岩崎は近くのカフェスペースを見つけてコーラを注文すると、椅子に深く沈み込んだ。
「ウチはリタイアや。あとは4人で楽しんできて」
橘に続いて岩崎まで脱落した。なぜ遊園地に遊びに来ているだけなのに、デスゲームのように人が消えていくのだろう。




