バカと部長は高いところが好き⑦
古いアトラクションの割に、内装はなかなかに凝った造りだった。井戸からぬらりと出てきたお菊さんが、皿の数を数える不気味な声。一枚足りないという定番のセリフを言い終える前に岩崎が駆けだしたので、最後まで聞くことが出来なかった。
「岩崎先輩、暗いところで走ると危ないですよ」
「なんで香月はそんな冷静やねん!怖ないんか!?」
「いやー、所詮は作り物ですし」
「関係あるか!怖いもんは怖いねん!」
もはや怯えているのを隠そうともしていない。彼女の非公式ファンクラブの生徒たちがこの姿を見たら、一体どんな顔をするだろうか。普段とのギャップにときめくか、イメージの崩壊に幻滅するか。香月は口にこそ出さないが、いつもと違う岩崎の新鮮さを少し楽しんでいた。
一方で先ほどから笑いが止まらないのが塩井だ。
「ひひ…見てみろ、あいつのビビりよう。一つ目小僧のなにが怖いんだか。目が多いっていうなら不気味かもしれないが、2つあるものが半数になっただけだぞ?」
「百目っていう、目が大量にある妖怪もいるみたいですけど」
「それが出てきたら岩崎はどんな反応をするんだろうな」
香月と同じく、塩井も作り物には一切びびらないタイプの人間だった。先頭を歩く岩崎が一人で騒いでいるのを楽し気に観察している。
「あ、岩崎先輩、後ろ。ろくろ首いますよ」
「ぎゃあああああ!」
「そっちにいるのは、がしゃどくろだな」
「もう嫌やあ!」
このお化け屋敷、結構広い。5分程度で出られると思ったが、すでに入ってから10分近く経過していた。
顧問の2人は仲良く腕を組み、列の最後尾を歩いている。お互いにお化けなど目に入っておらず、ホラー演出そっちのけでイチャイチャしていた。
岩崎がぺたん、と床に座り込む。
「あかん…、もう無理、進まれへん」
「進まないと出られないんだよ。とっとと歩くんだ」
ついに泣き出した岩崎相手にも塩井は容赦がない。さすがに可愛そうに思い、香月は岩崎の背中を撫でながら塩井に言う。
「こんな時くらい優しくしてあげてくださいよ」
「お化け屋敷くらいで大げさな。だがここで恩を売っておくのも悪くないな。よし岩崎、私が手をつないで出口まで連れて行ってやる」
塩井が差し伸べた手を岩崎は握らない。その代わりに、塩井を押し倒すような勢いで抱き着いた。
「な、なんだ暑苦しい。離れろ!」
「うっさい。出口まで目つぶってるから、このまま歩け」
「無茶言うんじゃない。抱き着かれたまま歩けと?」
「うん」
岩崎は宣言通り、本当に目を閉じてしまった。塩井が困ったように香月を見てきたが、その状態では助けようもない。
「仕方ないな。せめて後ろから抱きついてくれ。じゃないと前に進めない」
「…わかった」
岩崎は一瞬だけ塩井から離れ、そして後ろから抱き着きなおした。




