バカと部長は高いところが好き⑤
橘が抜けて5人になったメンバーが次に向かったのは、シューティングライドだった。舞台はモンスターの研究施設で、狼男やフランケンシュタインのような化け物たちを撃ちながらスコアを競うアトラクションだ。地方遊園地のクオリティーなので期待はしていなかったが、それにしても雑な造りだった。銃のセンサーは反応が悪く、標的となるモンスターもペラペラのパネル。お金をかければギリギリ文化祭でも再現できそうだ。
「最もスコアが高かった者は、最下位になんでも命令できる権利を得る、というのはどうだろう?」
乗り込む前に塩井が合コンみたいな提案をして、それに香月を除く全員が賛成していた。香月はシューティングに自信が無かったので反対したが、残り4人に押し切られて乗車。そして結果はというと…。
「やったー、私が一位!」
5人の中でもっともどんくさそうな前田がまさかの最高スコアを叩き出した。
「さっすが葵、シューティングの腕前もピカイチだな!」
「えへへ、昔からこういうのは得意なんだよね」
前田の頭を撫でている宇崎のスコアも2位と高く、続いて岩崎、香月、塩井の順番だった。
「言い出しっぺが最下位かいな」
「おぉぉぉぉぉ…」
塩井が地面にくず折れる。まさか自分が一番下になるとは思わなかったのだろう。
「ほな前田先生が塩井に命令できるわけやな」
「えー、どうしよっかな。そうだ、そこの売店に寄っていいですか?」
アトラクションの出口付近に、園のオリジナルキャラグッズを扱うショップがある。開業時にデザインされたキャラクターはどれも古臭く、昭和のセンスを感じる。あまり売れていないらしく、ほとんどの商品が投げ売りのような価格で販売されていた。
前田はその中から、犬のキャラクターのカチューシャを手に取った。茶色の分厚い犬耳がついたカチューシャと、首輪がセットになっている。何犬がモチーフなのか分からないが、首輪に厳ついとげとげが付いているので、柴犬やチワワなどの可愛い犬種ではないだろう。
「これ付けてください」
「なっ…これを?」
「はい。命令です。最下位の人はなんでも従うんですよね?」
「いやしかし先生、私にも恥じらいというものがありまして…」
「言い出したのは塩井さんですよ?」
「うぅ…」
塩井は観念したようにカチューシャを首輪を受け取り、姿見の前で装着した。
岩崎が手を叩いて大笑いする。
「あはははは!ええやん、似合てるやん!」
「く、屈辱だ…」
耳だけならまだ良かったが、首輪のせいで一気に不健全な雰囲気になっている。香月は犬コスプレから目が離せなくなり思わず凝視していると、ふと視線を上げた塩井と目が合った。
「なんか言ってくれ。無言が一番きつい」
「えっと、可愛いと思いますよ」
「それだけか。君はもっと誉め言葉のバリエーションを増やしたほうがいいぞ」
なぜか怒られたが、そんな恰好で言われても怖くない。
カチューシャと首輪を外そうとした塩井の腕を前田が掴んだ。
「なに外そうとしてるんですか?」
「もういいでしょう」
「ダメですよ。家に帰るまでそれは外すの禁止です」
ニタニタと笑う前田と対照的に、塩井の顔は絶望に包まれている。
「い、いやだ」
「約束は約束ですから」
「これは生徒に対する精神的虐待だ!教師がそんな事をしていいのですか!」
塩井がキャンキャン吠えているが、前田は愉快そうに笑うだけで、カチューシャを外すことを許可しなかった。前田にいいように弄ばれる塩井を、宇崎は少し羨ましそうに見ていた。




