バカと部長は高いところが好き③
小学生以来の遊園地は、以前に来た時よりも賑わっていた。人気アニメとのコラボイベントなどで集客に成功し、一定数のファンを獲得しているらしい。開業したのは高度経済成長期あたりで、施設の老朽化は目立つが、定期的にリニューアルはされているとネットで見た。
集合時間の20分前に入口で待っていると、岩崎が手を振りながら近づいてきた。
「おー、早いな香月。そんなに楽しみにしてたんかいな」
正直に言えば楽しみだったが、あまり浮かれた気分を悟られたくない。香月は「ええ、まあ」とあいまいな返事を返した。
プライベートの岩崎はシャツにジーンズとシンプルな恰好だったが、それが彼女のスタイリッシュさを際立たせている。ボーイッシュさの中に可憐さが見え隠れする岩崎には、塩井とはまた違った魅力がある。彼女の前を通る来園者たちが、ちらちらと横目で見ながら何かを囁きあっていた。塩井といい岩崎といい、現代アート部の3年生は容姿に恵まれているのが羨ましい。
途端に自分の恰好が野暮に思えてきて、香月は柱の陰で縮こまった。
「私、ダサくないですかね?」
「全然。かわいい恰好してるやんか」
「あ、ありがとうございます。でも岩崎先輩はほんとすごいですよ。私が同じ服着たら、一気に野暮ったくなりますもん」
「あんなあ、香月。そうやって自分を卑下するのは悪い癖やで。もっと自信持ち。香月は可愛い。それはウチが保証する」
ほら、すぐこれだ。非公式ファンクラブが作られるほど女子からも人気が出るのは、岩崎の無自覚な人たらしが大きな理由だろう。
「そろそろ塩井たちも来るころちゃうかな。お、言うてる間に来たやん。おーい、こっちこっち!」
入口に集まった来園者たちが左右に広がって道を開けた。海を割るモーゼのごとく、人ごみの中に生まれた不自然な一本道を悠然と歩いてくるのは、ワンピース姿の塩井だった。
人々が道を開けたくなる理由は、塩井の姿を見てすぐに分かった。
美しい。香月の頭に浮かんだのは、その一言だった。
水色のワンピースに身を包んだ塩井は、まるで絵画の世界から抜け出してきたみたいな、浮世離れした雰囲気を纏っている。歩く芸術品、そんな言葉が似合う。
「お待ちどう」
寿司屋みたいな挨拶とともに、塩井が香月たちのもとへ歩いてきた。岩崎と塩井に挟まれると、余計にみじめな気分になってくる。自信を持てと岩崎は言ってくれたが、やはり無理だ。女としての格が違い過ぎる。
「ふーん、塩井の普段着ってそんな感じなんや。清楚系気取ってるみたいでむかつくな」
「おやおや、シャツにジーンズの現場作業員みたいなファッションの女がいるな。親方と呼ばせてもらおう」
入園前から喧嘩が勃発してしまった。塩井と岩崎が互いのファッションをこき下ろしていると、残りの3人がほぼ同時に到着した。
「うえ…やっぱり人多い」
今回一番乗り気じゃなかった橘は、早くも帰りたそうにしている。
「なに言ってんの。こういうところは人が多いほうがテンション上がるだろ?」
「そうですよ橘さん。せっかく来たんだから楽しみましょう!」
宇崎と前田は一応付き添いという体で参加しているが、どうせすぐに2人だけで別行動を始めるだろう。
「全員そろったな。では始めよう。現代アート部、初の校外活動を!」




