↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
124/163

一枚のコインで家が建つ㊲

 目と鼻の先に塩井の寝顔が迫る。天然ものとは思えないほどの長いまつ毛に桜色の唇。並みの女性がどれだけ化粧を頑張っても、ここまでの美しさは手に入らないだろう。改めてじっくりと塩井を観察しながら、香月は女としての敗北を感じた。


 どうしてこの人は美貌を活かそうとしないのだろう。現代アート部など意味不明な活動なんてせず、大人しく周りの生徒に囲まれてちやほやされていればいいのに。そのほうがよっぽど充実した高校生活に違いない。


 「分かんないなあ、ほんと」


 香月は手の甲で、そっと塩井の頬を撫でた。


 もしも塩井に出会わなければ、今より高校生活が晴れやかなものになっていただろうか。現代アート部の代わりに運動部に入り、青春の汗を仲間とともに流していた未来もある。だが香月に後悔はなかった。


 「先輩…」


 学校帰りにバーに寄ってそのまま家に来たので、香月も塩井も制服姿のままだ。ボタンが一つ外されたブラウスに顔を埋めると、いつものケミカルなものとは違う匂いがした。バラのような香りが香月の鼻腔を刺激する。


 「好きな人って、誰なんですか」


 すやすやと寝息を立てている塩井に問いかける。


 「今までそんな話してこなかったくせに」


 恋愛になんてみじんも興味がない、という顔をしていた塩井に思い人がいる。付き合っているかまでは聞いていないが、塩井に好意を寄せられれば断る男はいないだろう。いや、男と決まったわけではない。クールビューティと称され、女性からの人気も高い塩井のことだ。彼氏じゃなくて彼女の可能性も捨てきれない。


 香月にも雄大という彼氏がいるが、塩井に対して特別な感情を抱いてしまっている事は明白だ。自分の気持ちに蓋をしようにも、彼女を目の前にして気持ちが抑えられなくなる。


 「そういえば部員集めも進んでないなあ」


 塩井との約束では、二度目の廃部の危機を回避するために部員集めを行い、成功すれば絵のモデルになってくれる、という話だった。一度目の約束が果たされた際、塩井は言った。次はどんな姿でも描かせてやる、と。


 「絶対に部員集めなきゃ」


 どんな姿でも、という言葉に嘘はないと信じたい。


 「ん…」


 塩井が寝返りを打ち、ただでさえ狭いベッドの上でさらに香月に迫ってきた。もはや香月は壁際に追い詰められ、塩井と壁の間に挟まっている状態だ。


 「く、くるしい…」


 まさか朝までこのままなのか。明日も学校なので6時起きだが、起床時間まであと8時間近くある。しかし下手に動いて塩井を起こしてしまうのも憚られるので、もう一度寝返りを打って向こうに行ってくれるのを待とう。


 時計の針が進み、11時、そして日付が変わったが、香月はまだ眠れていなかった。圧迫された苦しみもあるが、塩井と密着しているという状況でのんきに眠れるはずもない。5月はまだクーラー使用禁止という香月家のルールのせいで部屋は蒸し暑く、制服の下にじっとりと汗をかく。塩井も寝汗をかいており、湿った2人の体がこすれあう時間が続いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。