↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
120/161

一枚のコインで家が建つ㉝

 「どのボタンを押せばいいんだ。振り込みなんてやったことない」


 「分からないのに適当に押さないでくださいよ。それ預入ボタンですって。その横のやつ。あっ、違う。そっちは引出し!」


 「香月がやってくれ。どうにもデジタルは苦手なんだ」


 そういえば塩井はスマホのフリック入力も苦手で、いつも人差し指でもたもたと文字を打っていた。


 深川から教えてもらった口座に30万円の入金を済ませ、銀行を出る。もうすっかり日は沈み、街灯に灯りが灯り始めていた。


 好きな人がいる、という塩井の言葉を香月は何度も頭の中で反芻していた。塩井が男にデレデレしているところはまったく想像つかないが、変人とはいえ彼女も女子高生。人並みに恋愛はしているのだろう。


 「さっきから難しい顔ばかりして、一体どうしたんだ」

 

 「え、私そんな顔してました?」


 「君はあれだな。私と出会ってから顔つきが変わった。入部してからしばらくの間は、新入生らしくフレッシュで可愛げがあったというのに、だんだん渋みが出てきたというか…」


 「そりゃ先輩が変なことばっかりするから、常に目を光らせておかないとっていう緊張感のせいですよ。ちょっと目を離したら奇行に走るんだから」

 

 実際に一年前に比べて眉間のしわは深くなった気がする。


 「このあとどうする?」


 「どうするって、もう夜ですし帰りますよ」


 「どこかで晩御飯を食べていかないか?」


 今は塩井と2人でいるのがなんだか辛いので、断ろうと口を開きかけた。しかし塩井は返事を聞く前に香月の腕をつかみ、大通りから外れた暗がりへと引き込んでいった。


 「行きつけの店があるんだ。ぜひ香月にも堪能してもらいたい」


 「お、親がごはん作って待ってるんで」


 「ならば私から親御さんには連絡を入れておく」


 「なんで連絡先知ってるんですか!」


 「前にお邪魔したとき、香月のご家族全員と連絡先は交換している。いいご両親と弟さんだな」


 この女、いつの間にか人の家族に浸食してきている。相変わらずもたもたした動きでメッセージを打ち込み、香月の母親に連絡を済ませた塩井は、行きつけの店とやらがある路地へと引っ張ってくる。


 「もう、分かりました。行きますから、腕離してください」


 「繋いでないと迷子になるぞ」


 「そんな迷路みたいなとこにあるんですか?」

 

 塩井はこちらを振り向き、いたずらっぽく笑った。にっと歯を見せて笑う塩井は、普段よりなんだか幼く見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。