一枚のコインで家が建つ㉜
ホームレスの3人は暴行容疑で警察に逮捕された。長髪以外の2人、禿げ頭と天パは暴行を加えたのではなく加えられたほうなのだが、そこは連帯責任である。
部室に運び込んだ小銭をバケツに入れ、全員で虜囲む。
「改めて見るとすごい量やな」
「これって私たちの給料より高いよね?」
「やめてくれ、葵。悲しくなる」
ホームレスはまだお金に手を付けていなかったらしく、展示前に計算した時と金額は変わっていなかった。
「どうするんですか、このお金。まさかみんなで山分けとか言いませんよね」
塩井なら言いかねないので、一応香月は釘を差しておいた。
「どうせ作品の展示が終わったら解体するつもりだったし、いくつか使い道の候補は考えてある」
「もともと言ってた、芸術を使った地域振興とかなんとかですか?」
「自分の金なら買わないような株式を買ってみるとかさ」
「絶対やめてください。学校のみんなから集めたお金ですよ!」
「冗談じゃないか。このお金は社会貢献に役立てようと思う」
社会貢献。その言葉は塩井の口から出てきた時点で、本来持っているはずの崇高な意味を失ってしまう。
「なんだよ香月、その顔は」
「どうせろくな事考えてないんだろうなって」
「失礼だな。私もあまり詳しくないから深川にさっき聞いてきたんだ。そしたらなんと、ホームレス支援を行っている非営利団体があるそうでな。そこに全額寄付しようと思う。ホームレスの中にはあいつらみたいなクズもいるが、本当に困窮している人たちがいるのも事実。そんな人たちの支援に使ってもらえるなら、お金を集めた甲斐もあるというものだ」
塩井にしてはまともすぎる考えだと思ったが、深川の入れ知恵なら納得だ。生徒会の活動として地域社会との繋がりを持つ深川が言うのだから、信用に値する団体なのだろう。
口座への振り込みに行く塩井に付き添い、銀行へ向かう途中、香月は尋ねた。
「先輩って好きな人とかいるんですか」
「なんだ藪から棒に」
「いやなんとなく気になって」
「いると言ったらどうする」
以前までならなんとも思わなかったはずだ。だがホームレスから香月を守ろうとしてくれたあの日から、塩井が遠くに行ってしまうのが怖くなっていた。
「…いるんですか」
「いるともさ」
銀行に着くまでの10分間、それ以上の会話が生まれず、2人は無言で歩き続けた。




