一枚のコインで家が建つ㉕
岩崎が地面に転がっている屋根の破片を拾い上げ、精肉店の残骸に向かって投げた。カツンという音にホームレスが反応する。
「誰かいんのか?」
ホームレス3人はそれぞれ、禿げ頭、天パ、長髪という特徴があった。岩崎の罠に引っかかったのは天パだ。
「お前、ちょっと見て来いよ」
天パにそう命じたのは、禿げ頭。3人の中で一番体格がいいが、それでも塩井が言っていた通り標準的な男性の体格に比べれば貧相である。
天パがのそのそと音のしたほうへ近づいてくる。岩崎が投げた破片を拾い上げ、飛んできた方向を振り返ったその時。
「捕まえた」
四条が天パの手首に素早くロープを巻いた。まるで神業。一連の動作が早すぎて香月の目では捉えられなかった。
天パが悲鳴を上げようと開いた口に、岩崎が丸めたタオルを詰め込む。
「んぐっ…」
「大人しいしときや。騒いだら、目え突くで」
なんて恐ろしい脅し文句だ。自分が言われたわけでもないのに、香月は寒気に襲われた。
女子高生2人に襲われた天パはすっかり腰を抜かして、ガタガタと震えている。
「まず1人やな。残りも分断して1人ずつ片づけていこか」
「オッケー。案外早く終わりそうだね」
岩崎と四条のコンビネーションは抜群だ。岩崎は緊縛の被害者であり、四条のことは恨むまではしなくても快くは思っていないはずだが、相性が悪いわけでもなさそうだった。
「私ね、この戦いが終わったら塩井ちゃんを縛りまくるんだ」
「勝手にせえや」
「岩崎ちゃんもどう?正直、あの時縛られて気持ちよかったでしょ」
「アホか。ウチはお前みたいな変態ちゃうねん。そんなん言うてんと、2人目いくで」
天パがなかなか帰ってこないことを不思議に思ったのか、禿げ頭がのそのそと立ち上がり、まんまと岩崎たちがいる方向へ歩き始めた。
「おーい、どこまで行ったんだ。明るいとこには出るなよ。見つかったら色々面倒なんだから」
「そりゃっ!」
岩崎がビニール袋の口を開けて、禿げ頭に向かって中身をぶちまけた。白い粉が舞い、男の姿が見えなくなる。
「岩崎先輩、何をまいてるんですかね?真っ白になってますけど」
「石灰じゃないか?運動場に白線を引くときに使うやつ。確かここに来る前、岩崎が体育倉庫に寄っていた。あの時に備品の石灰を拝借していたんだろう」
そしてもわもわと舞う石灰の中に、四条はロープ片手に躊躇なく突っ込んでいった。視界が悪いのは四条も同じだろうに、相手を拘束することが出来るのだろうか。




