一枚のコインで家が建つ㉔
「交渉成立だよ、塩井ちゃん。女に二言はないね?」
「ああ、約束は必ず守るとも」
現代アート部と緊縛クラブの部長が固い握手を交わした。四条という戦力を手に入れたかわりに、作戦が成功した暁には、塩井は自らの体を差し出さなくてはいけなくなったのだ。本人が納得しているなら構わないが、香月としては複雑な気分だ。
「これで役者はそろった。さあ、ホームレスの根城に向かうぞ」
「他のメンバーは誘わないんですか。野球の時に協力してくれた深川さんとか」
自分で言ってから、しまったと思った。野球の時に参加しており、今回声がかかっていないのは深川、そして雄大だ。深川はともかく、雄大を危険な事に巻き込みたくない。
「香月の彼氏を付き合わせるつもりはないよ。彼は私たちの活動とは無関係だし、変な噂が立っても迷惑だろうからな。それと深川、あいつは…」
塩井は一瞬考え込み、首を振った。
「いいや」
塩井は深川の本性を知らないが、生徒会長の顔の裏からにじみ出る危険なオーラをなんとなく感じているのかもしれない。
現代アート部の部員、四条、そして顧問の2人を引き連れて商店街跡へ向かう。一見するとただの校外活動の最中のようで、まさかこれから殴りこみに行くところだとは思われまい。
「いいか、相手は3人、全員男だ。だがホームレスでまともなものを食べていないから、体はそこまで頑丈じゃない。この前は暗がりで見ただけだが、成人男性の標準体型に比べてかなり貧弱だったよ。岩崎と四条のフィジカルでなんとかなりそうだ。2人は前線でやつらの注意を引き付けてくれ。私たちはその間に、盗まれた小銭を回収する」
塩井と前田の合作は、盗まれた時に破壊されているのでもはや作品とは呼べず、ただの小銭の寄せ集めだ。回収するにしてもかなりの重量があるので、塩井と香月、橘の3人が回収担当。顧問の2人は見張りを任された。
商店街跡は昼間でも暗い。かつて営業していた時代はにぎわっていたであろう商店の数々は、もはやただの廃墟と化している。豆腐屋の看板は朽ち果て、クリーニング屋があった場所には、染み抜き用の溶剤の容器が転がっていた。
「へえ、初めて来たけど、なんかいいねー。ここで映画撮れそう」
「しっ、いたぞ!」
暢気に廃墟を散策していた四条の口を、塩井が抑えた。
「この前の3人だ。相変わらず小汚い格好をしてるな」
ホームレスたちは、どこかからくすねてきたのか、それとも配給されたものなのか知らないが、プラスチック容器に入った弁当を食べているところだった。くちゃくちゃと汚い音を立てながら、ミニハンバーグに箸を突き刺して口に運んでいる。
「ドブネズミめ」
「塩井先輩、あの人たちにも人権がありますから、あまりひどい物言いは…」
「なんだ橘。敵を擁護するのか?」
「い、いえ、そういうわけでは」
「いいか。これは戦争だ。余計な情は捨てるように。でないと死ぬぞ」
「死ぬんですか⁉」
橘はいつでも逃げ出せるように、集団の一番後ろに位置取る。
「岩崎、四条。行けるか?」
「任しとき。一発ぶちかましたるわ」
「楽しみだなあ、塩井ちゃんとのプレイ」




