一枚のコインで家が建つ㉑
「こうなったら自分たちで捕まえるしかないな」
「危ない目に遭うといて、まだそんな事言うんか!ウチらが問題起こしたら学校全体に迷惑かけることになるねんで。そのへんちゃんと考えてるんか!」
本来なら教師である宇崎と前田がしなければいけない注意を、岩崎が代わって行う。反論の余地がない正論をぶつけられた塩井は、不満そうに口を尖らせた。
「岩崎は作品を盗まれてないからそんなことが言えるんだ。芸術家にとって自分の作品は子供と同じ。我が子を攫われ、挙句に殺されたようなものだぞ。復讐を誓ってもいいだろう」
「あの自称センス系みたいなアートやろ。あんなもん子供ちゃうわ」
「岩崎さん、ひどい…」
自称センス系の前田が心を抉られている。
「やつらを放置しておけば、次なる被害者が出ることは確実。犯人は現場に戻るというし、次は神社の賽銭箱が盗まれるかもしれん。味を占めて強盗やもっと重たい犯罪に手を染める可能性だってあるんだ。悪の芽は今のうちに摘んでおかないと」
「だからって高校生になんとか出来るもんとちゃうやろって」
「いいや、してみせるさ。君は男勝りなくせして、女は所詮男に力が及ばないと、凝り固まった考えを持ってるんじゃないか?だからそんなに逃げ腰なんだろう」
「なっ、なんやと!ウチはそんな弱気な女ちゃう!」
「なら戦うんだよ、岩崎。君は我が部の特攻隊長だ」
物騒な役職を与えられた岩崎は、闘争心に火が付いたのか、先ほどまで持っていた常識をかなぐり捨てた。
「おお、やったるわ!ホームレスなんか筋肉ないし、ひょろひょろやろ。なんぼほどサッカーボール蹴ってきたと思ってんねん。ウチのキックで全部骨折ったる」
「岩崎先輩、それ傷害罪。下手したら殺人未遂」
岩崎をけしかける事に成功した塩井は、にやりと笑っている。
「やる気になってくれて良かったよ。そして我が部には、トリックアートの使い手もいる。橘、君にも協力してもらうぞ」
厄介ごとに巻き込まれる前に帰ろうとしていた橘は、あと少しで部室を出るというところで塩井に捕まった。
「と、トリックアートは戦いの道具じゃないですよ」
「戦場において相手をかく乱するのは立派な戦術だ。君のトリックアートのクオリティーには信頼を置いてる。もちろん協力してくれるね?」
嫌だと言っても無駄なことは、橘も理解しているはずだ。ものすごく嫌そうな顔で、橘は首を縦に振った。
「よしよし、いい子だ」
塩井に頭を撫でられる橘を見て、香月は固唾をのんだ。やはり何かがおかしい。これではまるで、橘に嫉妬しているみたいではないか。
「戦力は多いほうがいい。先生方はもちろん協力してくれますね?」
「まあ、盗まれたのは葵の作品でもあるしな」
「怪しい人を野放しには出来ませんからね。私もお力になります」
顧問2人も加わり、現代アート部6人全員で捜査チームが結成された。
「そうだ、もう一人武闘派がいるじゃないか。あいつも入れよう」
「まさか、あの変態ですか?」
香月の頭に浮かんでいる人物と塩井の指しているのが同じ人間ならば、あいつというのは1人しかいない。




