一枚のコインで家が建つ⑯
犯人への憎悪に突き動かされた塩井は、深夜ということも相まってテンションがおかしくなっている。パソコン画面を睨みながら騒いでいたかと思うと、唐突に香月の腕をつかんで引っ張ってきた。
「行くぞ香月!」
「行くってどこに?」
「盗人どもを捕まえに行くんだよ。犯人はまだ近くにいるはずだ」
「それは警察に任せましょうよ。私たちが追いかけたところで、映像見る限り相手は大人の男でしかも3人。絶対危険ですって」
「相手が3人ならこっちも3人だ」
「待って。私も入ってんの?」
事件と無関係のひなちゃんは、知らぬ間に頭数に入れられていた。高校生2人と小学生1人が組んだところで、大人の男3人に立ち向かえるわけがない。そう説得を試みたが塩井は納得していない様子。どうしても犯人を自分の手で捕まえたいらしい。
「君たちが行かないなら、私一人でもやってやるぞ」
「3人でも危ないって言ってるのに、なんで1人で行こうとするんですか」
「楽して金を手に入れようなどと、甘えた考えの人間を野放しにはできん。それに人の作品を平気で壊す根性も腐っている。直接捕まえて説教してやりたいんだ」
募金箱を持って突っ立っているだけで、労せずにして金を手に入れた塩井が言えた立場だろうか。
しかしこのままにしておくと、塩井は本当に1人で行ってしまいかねない。もし男たちに捕まったら一体どんな目に遭わされるのか、想像しただけで寒気がする。
「分かりました。私も付いていきますよ。でもひなちゃんは連れていきませんからね。これは現代アート部の問題なんですから」
父親の留守中に娘を勝手に連れ出して危険な目にあわせたとなれば、神主から訴えられてもおかしくない。せめてリスクを背負うのは、自分と塩井だけに留めておきたい。
「そうか分かった。邪魔したな、ひなちゃん。久々に顔が見られて嬉しかった。また舞子お姉ちゃんと遊ぼうじゃないか」
「遠慮しとく」
「くれぐれも食生活には気をつけなさい。次に会うときに、また豚に戻ってるなんて事がないようにな」
塩井の鼻先で扉が閉められた。
「私はなにかまずい事を言ったか?」
神が塩井という人間を作った時、デリカシーの概念を植え付けるのを失念していたのだろう。そうじゃないと、失言のオンパレードになる理由の説明がつかない。




