一枚のコインで家が建つ⑭
「君、ひなちゃんだろう?覚えてるかい、舞子おねえちゃんだよ!」
塩井が少女の頭をぐりぐりと撫でまわした。ただでさえ不審者なのに、子供に手を出したとなれば通報されかねない。
「舞子おねえちゃん…?ああ、いたね、そんな人」
「なんだその言い方は。年食って可愛くなくなったな、君は」
どうやらひなちゃんと呼ばれた少女と塩井は顔見知りのようだが、それにしては反応がそっけない。
「先輩、この子と知り合いなんですか?」
「ああ、神主と親戚が繋がっていると言っただろう?私も小さいころは親戚の集まりによく顔を出していたもんだ。どういうわけか最近は呼ばれなくなったがな。その時に遊んでたんだよ、このひなちゃんとな。この子は神主の娘さんだ。いやあ、懐かしい。10年ぶりくらいか?」
「6年ぶり」
ひなちゃんは塩井の手を跳ねのけて、迷惑そうに言った。どう見ても好かれていないのは確かだ。
塩井が今年で17歳。6年ぶりということは、最後に会ったのが11歳の時ということになる。
「あんなに小さかったひなちゃんが、立派になって。おねえちゃんは嬉しいぞ。今いくつになった?」
「5年生だけど」
「そうか。なら当時はまだ幼稚園だったわけだ。あの頃のひなちゃんはまるでそう、例えるなら…子豚のように丸々として愛らしかった」
「そういう時は豚で例えないんですよ」
動物で例えるなら、せめて犬とか可愛い生き物にしてほしい。面と向かって豚扱いされたひなちゃんが機嫌を損ねたのは言うまでもない。
「誰が豚だ」
「まあまあ、昔の話じゃないか。今はすっかりスリムになって、顔も大人びてる。あの頃は頬の肉がせりあがって、目が肉に埋没していたと記憶しているよ」
失礼な発言が湯水のように湧き出てくる。塩井を止めないと、ひなちゃんに本気で通報されるかもしれない。
「うざい。帰れよ」
「なっ…昔はそんな口のきき方しなかったのに!舞子おねえちゃんの事、大好きだっただろう?」
「親戚が集まるところで他に女の子いなかったから、しかたなく遊んでただけ。別に好きじゃない」
「香月ぃ…、ガキが私をいじめる」
豚の次はガキときた。
「えっと、ひなちゃんだっけ。ごめんね、夜遅くに。この人は私が責任もって連れて帰るから」
「お姉ちゃんはこの人の友達?」
「一応後輩。同じ部活の部長さんなんだよ、この人」
「部長って、こいつが?」
「こいつぅ!?口のきき方には気をつけろよ、クソガキめ!」
「そう、こいつが部長。現代アート部っていうの」
「なにそれ。つまんなさそう」
「面白いかどうかは置いておいて、意味は分からないよ」
言われたい放題の塩井が、両手を広げて2人の間に割って入った。
「言わせておけばペラペラと。ひなちゃん、いや、ひな。いいや、クソガキ。貴様にはまだ現代アートは早い。ガキはお絵描きでもしていろ」
「あっそ。じゃあもう寝るから、とっとと帰んな」
ひなちゃんが閉めかけた扉に、塩井が片足を挟んだ。
「待ちなさい。舞子おねえちゃんは大事な用事があって来たんだ。家に上げてもらおうか」
「え、やだ」
「神主には電話を入れておこう。さあ香月、お邪魔するとしよう。ああ、そうビビるな。でかい屋敷だからって、所詮はただの家。何も気負うことはないさ」
家主の娘が拒否しているにも関わらず、塩井はずかずかと家に上がりこんでいった。一人で行かせるわけにもいかず、香月はそのあとを付いていく。
「お邪魔しまーす…」




