第二話:私のスキルと、邪神様の家庭菜園
翌日から、私と邪神ノア様の奇妙な同居生活が始まった。
ノア様は「体力が戻るまでここにいろ」と言ってくれた。
驚いたことに、この『邪神の領域』と呼ばれる場所は、恐ろしい魔物の巣窟などではなかった。
結界に守られたこの空間は、一年中温暖で、美しい花々が咲き乱れる楽園だったのだ。
そしてノア様は、かつて世界を滅ぼしかけた破壊神としての過去を持ちながら、現在はスローライフをこよなく愛する『超・家庭的男子』になっていた。
「リアナ、ちょっと畑の手伝いを頼めるか?」
「はい、ノア様!」
私はすっかり元気を取り戻し、ノア様のお手伝いをするようになっていた。
ノア様の畑には、普通の野菜だけでなく、魔界の植物や、意思を持つ魔法植物がたくさん植えられている。
『あー、水! 水が足りないわよ!』
『こっちの土、ちょっと酸性が強いんじゃない?』
『日差しが眩しいわ! 葉っぱが焼けちゃう!』
畑に出ると、私には植物たちの賑やかな声が聞こえてくる。
私のスキル【植物の声を聞く】は、この場所で劇的な効果を発揮したのだ。
「ノア様、マンドラゴラさんが『もう少し水が欲しい』と言っています。あと、あっちの太陽樹は『土が酸性すぎる』と」
「なんだと? 太陽樹の奴、昨日肥料を調整したばかりだぞ。……いや、待てよ。リアナ、その配合で土を作ってみてくれ」
「はい!」
私が植物たちの要望を通訳し、それに合わせてノア様が魔法で環境を調整する。
結果として、ノア様の畑はかつてないほどの大豊作となった。
「すごいな、リアナ。お前が来てから、気難しい魔界の植物たちが嘘のように元気に育つ。お前のその力、素晴らしい才能じゃないか」
泥だらけの私の頭を、ノア様が大きな手で優しく撫でてくれた。
「才能、ですか……?」
「ああ。俺にとって、お前は最高のパートナーだ」
家族から「無能」と罵られ続けてきた私の力が、初めて誰かに認められた瞬間だった。
胸の奥がじんわりと温かくなり、視界が滲む。
ノア様は無骨だけれど、とても優しくて、彼の側にいると、自分が生きていてもいいのだと心から思えた。
毎日一緒に畑を耕し、収穫した野菜で一緒に料理を作る。
ノア様の作るパンは絶品で、私が淹れるハーブティーを彼はいつも「美味い」と言って飲んでくれた。
夜は暖炉の前で、彼が昔世界を旅した時の話を聞く。
恐怖の対象であった邪神様との生活は、私が人間社会で生きていた頃の何百倍も、何千倍も、温かくて幸せな時間だった。




