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第5話:オーバードーズ

季節はすっかり夏の終わりである。

ムギと初めて会ったのはまだ冬の寒さが残っている頃で、時が経つのは早いものだ。


最初にムギに会った印象はというと、しっかりした清楚ないい子、であった。別に実際はそうじゃないとか言いたいのではない。ただ、今の印象はちょっと危なっかしい子である。


ムギはどうやら何かに依存しやすい体質らしい。タバコなどは前に述べた通りだが、あとはお酒だ。

ムギは強いお酒をがぶがぶがぶがぶ飲む傾向にある。この前は日本酒を熱燗で何合も飲んでいた。なんでも、熱燗だと酔っ払いやすいらしい。

そうして酔っ払ってしまうと、わたしに甘えてくる。お酒の次はわたしに依存するわけだ。


「ユキい、将来どうしよお」

「わたしなんて才能もないのになんで絵描きなんかしてるんだろお」

「助けてよお」


そうした将来の不安を頻繁に口に漏らす。ひと通り発散したあとは、わたしの膝の上で寝てしまうのだ。これがいつものパターンとなっている。



今日はわたしの家で彼女とお酒を飲むことになっている。

ムギの良いところは、お酒を飲み過ぎて吐いたりしないことである。いつも急激に酔っ払い、急激にメンヘラになり、寝落ちしてしまう。かわいい子にそんなことをされて、わたしも満更でもない、といった具合で成り立っている。


ピンポーン


「おはよお・・・」


明らかに様子が変である。まず、おはようの時間ではない。

それはいいとして、すでに目がとろんとしていて、火照っている。


「もうお酒飲んできたの!?」


「ちがうよお、これ」


彼女が手に持っているのは。風邪薬だ。


「風邪ひいちゃったの?」


「ちがうよー。ODだよ」


OD。オーバードーズの略である。そう、ムギは風邪薬でキメてきたのだ。


「ちょっ、、大丈夫なの!?」


「死んじゃうかもお」


そう言いながら、ふらふらと部屋に上がる。側から見ればただの酔っ払いだ。


「もおぜんぶ嫌になっちゃってえ、こわれれっれっちゃうんだよお」


「・・・どうしたの、何があったか話してごらん」


「なんもないよお、いつもと同じだよお。ユキちゃんに会いたいんだよお」


「なんで今日はお酒じゃないの、薬なんて体に悪いよ」


「だからぜんぶ嫌にだっだっだって言ってんじゃーん」


そんな具合で的を得ない会話を続けて分かったのは、これが別に初めてのオーバードーズではないということだ。今まで隠してきたけど、今日は抑えられなかったということだろうか。あるいは、それほどの信頼関係になったということだろうか。


「かわいそう」


「へえー?」


「ムギがそんな思いするなんてかわいそう。

ムギはいい子で、かわいくて、頑張ってるのに。本当にかわいそう」


なんだか感情が溢れ出してきた。

出会った頃の第一印象はしっかりとしたかわいい娘だった。

それが今はどうだ。タバコやお酒、薬物にまで手を出して。こんな弱弱しい姿になって。わたしの中の美しいものが壊れていく、そんな気がした。


かわいい娘の決して見ることのできない、わたしだけにしか見えない自傷的な一面。守ってあげなきゃ。そう思った。

ん?自傷的?


「ちょっと手首見せなさい」


ぐいっと彼女の袖をめくると、手首というよりは腕の方に、小さな切り傷が2本あった。


「初めてだからあんまり切れなかったよお・・・」


そう言う彼女を、彼女の頭を、ただ抱くことしかできなかった。わたしの中に生まれた感情は、愛おしさ。衝動に任せるまま強く、彼女の頭を抱いた。


「わたしが、守ってあげるからね」


ここで言う「守る」とはどういうことか。わたしにも分からない。ただ、彼女を守ってあげなきゃ。そう強く感じた。

ムギはわたしに頭を抱かれ、わんわん泣いた。受け入れてもらった、体を預けられる、その安心感ですっかりわたしに心を開いたようだ。


彼女はまたうわごとのように将来の不安をこぼし始めた。


「わたしねっ、親に無理言って大学までいかせてもらったんだぁ」


えずきながら続ける。


「就職したくなくてっ、絵で生きていこうとか、自分勝手でっ。いまはこんなことになっててっ、最低でしにたいっ死にたいよお」


喋れないほどにぐちゃぐちゃになりながらわたしに気持ちをこぼしている。わたしの服はムギの涙でびしょびしょになっている。密着して話す彼女の吐息で、濡れていても温かい。その後も彼女の爆発は続いたが、最後の方は死にたいしか言わなくなってしまった。

わたしはムギに同情するとともに、あってはいけない感情も感じ始めていた。

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