第3話:偶然
仕事からの帰り道。
「今日も疲れたな・・・」
ムギと会ってから1ヶ月。特に連絡も取っていなかった。別に嫌いだとかでは全くない。むしろもう一度会いたいと思っているほどだ。しかし、相手は忙しいんじゃないかとか、会って何すればいいかとか考えるうちに、連絡する気がなくなるのだ。
大人どうしの関係なんてこんなものである。
互いに一定の距離感を保つ。学生の頃のようにはいかない。
どうして大人になるとこうなるんだろうか。ムギとは話が合うし、一緒に居て楽しかった。
でも、会う理由がなければ会わない。
連絡する理由がなければ連絡しない。
それが大人なのだ。
「寂しくなっちゃうーなー♪」
帰り道。コンビニで買った弁当の袋が音を立てる。私が歩くのと連動して
カサッ、カサッ
と鳴いていた。
コンビニ袋の音とは、なんと悲しい音だろう。だってこれから1人寂しくご飯を食べるということじゃないか。
そのとき
雑居ビルの狭い出口から、女の子4人組が出てきた。
「美味しかったね〜」
「うんまた絶対来よう!」
「今度は〜も誘おうか」
などと普通のことを話していた。
その中に、例の女の子ひとり。ムギである。明らかにムギである。今日は落ち着いた服装をしていて、なんというか、夜バージョンみたいな感じだ?
わたしの脳内にアドレナリンが出る。獲物を見つけたライオンはこんな感じだろう。ちょうど一人で寂しかったところに彼女が現れたのだから。
だが少し躊躇した。いいのか、変な顔されるんじゃないか。しかしこんなチャンスはない。ムギともう一度お話ししたかった。1秒くらい躊躇して、やっぱり声を掛けに行った。普段ならこんなことはしないが、行くときは行く女なのである。わたしは。
「おーい」
小声で手を振った。
「・・・おーーー!」
お酒が入っているのだろうか。少し大袈裟に反応してくれた。ムギにしては。2回しか会ったことはないが、ムギはミステリアスな雰囲気を放つ女の子だから、こういうリアクションは意外なのだ。
「何してるの?こんなところで」
「友達と飲んでただけだよ!ムギこそ。仕事帰り?」
「そうだよ。疲れたのでした」
そういう会話を少し続けた。気づいた頃には彼女と一緒にいた女の子たちは帰って行った。いいの?とムギに訊いたら、もう解散するとこだったから、とのことだ。
また、ムギは会話しながらタバコをつけ始めた。タバコとは意外である。いや、ムギにはよく似合っているからそうでもないか。まるでかっこいいダウナー系お姉さんである。
一服すると、ムギは口を開いた
「・・・今日家に携帯忘れちゃったからさ、大変だったよ」
「そうなんだ?よく友達と集合できたね」
「ほんとそれ」
「・・・というか、色々となんか意外だよね」
なにが?ムギはそう言いたげな表情をしている。わたしにとっては今日の彼女は雰囲気が違って、タバコも吸うし携帯を忘れたりするようなタイプに見えなかったから、とそういうことを言いたかった。
「つまり・・・えっと、ムギは清楚系?かと思ってたから。お酒とかタバコとか、、」
「・・・失望した?」
ムギは楽しそうに聞いてくる。失望・・・したのだろうか。分からない。ただ、携帯を家に忘れるのも、、、何というか、だらしがないかなあ、と。
今日は会うのが3回目だが、やっと本当のムギが見れた気がする。今まではちゃんとし過ぎていた。だから近寄り難かったのかもしれない。連絡を取りづらかったのかもしれない。だが今日の彼女は、酔っ払ったり、タバコを吸ったり、携帯を忘れたりする。そういう人間らしい一面が見えたのが嬉しかった。
「失望なんかしないよー。かっこいい一面もあるなってこと」
「よかった」
タバコを一服してムギは続ける
「もう二度と会えないかと思ってたし」
同感だった。あと、なんだ、と思った。だってわたしはムギに会いたいと思っていたが連絡しなかった。ムギも同じだったのだ。
ムギは酔っているのか、顔がほてっているように見えた。




