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第7.5話 「僕ら鬼龍義姉弟の馴れ初め!」

 「純君……私のこと、忘れないでね」

 

 眠っている僕の耳元で、義姉さんが泣きながらささやいていた。

 

 夢だと思っていたけれど、唇に触れた温かくて優しい感触。……ああ、これは過去の記憶だ。姉さんがある日突然、家を出て行ってしまったあの晩の出来事を、僕は夢として追体験しているんだ。

 

 僕の世界一ブラコンで、世界一愛しい義姉さんとの、切ない記憶。


 僕は鬼龍純きりゅう・じゅん。どこにでもいる平凡な高校生――だと自分では自負している。


 そんな僕には、平凡とは程遠い姉がいた。


 物心つく前に両親が離婚した僕には、母親の記憶がなかった。

 

 幼稚園の頃、毎日お母さんが迎えに来てくれる友達が羨ましくて仕方がなかった僕に、小学一年生のある日、父さんが言った。


 「純、お前に新しいお母さんと、お姉ちゃんができるぞ」


 初顔合わせの場所は、少しお洒落をしたレストランだった。


 慣れない雰囲気にビクビクしながら待っていた僕の前に現れたのは、元女優だという驚くほどの美人な義母さんと――そして、息を呑むような美少女だった。


 僕より一歳年上の二年生だと聞いていたけれど、彼女は同年代とは思えないほど背が高く、大人びて見えた。

 

 品の良いドレスに身を包み、パッチリとした大きな瞳で、僕のことをじっと見つめている。


 (……こんなナヨナヨした子が弟なんて、ガッカリさせちゃったかな)


 僕は昔から背が低く、写真でしか知らない母さんに似て、まるで女の子みたいな見た目をしていた。おじいちゃんやおばあちゃん、近所の人たちには「女の子より可愛いわよ!」なんて褒められたけれど、男の子としては少しも嬉しくなかった。

 

 沈黙の後、姉さんが鈴を転がすような澄んだ声で問いかけてきた。


 「わ、わたし、麗奈れいな! あなたのお名前は?」


 「は、はい! ぼ、僕は純、鬼龍純です! は、はじめまして! お目にかかれて光栄です!」

 

 自分でも、なぜあんな行動に出たのか分からない。

 

 けれど、ドレス姿の彼女があまりに神々しくて、本当にお姫様に見えてしまったのだ。


 先日、海外の童話アニメで観たシーンが脳裏をよぎった。僕はアニメの騎士ナイトを真似て、彼女の前にひざまずくと、その右手を取って、白く細い手の甲にそっと唇を寄せた。


 姉さんは、目を丸くして固まってしまった。

(し、しまった……! 嫌われちゃうに決まってる!)


 「ご、ごめんなさい! 麗奈さんがあまりに綺麗でお姫様に見えたので、つい……!」


 慌てて謝ったけれど、姉さんの顔は見る間に真っ赤に染まっていく。


 怒らせてしまった、と絶望しかけた僕の耳に、姉さんの口から「爆弾発言」が飛び出した。


 「純君……将来、私と結婚してくださぁーい!!」


 ――こうして、僕と姉さんの、波乱に満ちた「義姉弟生活」の幕が開けたのである。






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