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第8:話 飲み過ぎ元生徒会長を100%禁酒できる場所にご招待!

 朝の通学路。八神学園へと続く桜並木の下で、一際目立つ集団が騒がしく歩いていた。


 「う〜ん、いい天気! 純君、こんな日は学校なんてサボって、私と温泉にでも行かない? 二人でしっぽりと……。キャーッ、私ったら大胆♥」


 「麗奈さん! 朝からなんて破廉恥で不潔な! 今日の礼法の授業で、私が『大和撫子』のなんたるかを叩き込んで差し上げますわ!」


 「そうだよ姉さん。苦手な古典のテストがあるからって、逃げようとしたってそうはいかないよ。昨夜あんなに勉強に付き合ってあげたんだから……」


 「付き合うなんて……純君たら大胆! いくら義姉弟きょうだいとはいえ、そんなハッキリ言われちゃうと……」


 「不潔ですわっ!!」


 「HA、HA、HA! MORNINGから賑やかだね。こりゃTODAYのハイスクール生活も楽しくなりそうだ!」

 

 あの生徒会室へのカチコミ騒動から、はや一週間。学園はようやく、本来の落ち着きを取り戻しつつあった。

 

 姉さんの『お仕置き』がよほどトラウマになったのか、あの日現場にいた蝶野会の面々は、入院先から揃って退学届や転校届を出してきた。

 

 狐につままれたような学園側だったが、即座に組織改革が断行され、クリーンな新生徒会が発足。わずかに残った蝶野会の残党たちは、これまでの報いを受けるように肩身の狭い思いをしていた。

 

 真の友人たちについては、僕たちの口添えもあり、「仲間を守るための苦渋の決断だった」とクラスメイトも納得してくれたようだが……。まあ、僕たちにできるのはここまで。あとは本人たちの振る舞い次第だ。

 

 不思議なことに、蛇沼会も一切の手を引いたらしい。理事長をはじめ教師たちの顔にも、ようやく教育者としての覇気が戻ってきた。

 

 僕たちはというと、自然と真や佳奈さん(「名字ではなく名前で呼んで」という本人の希望だ)とグループで行動するようになった。

 

 ただ、佳奈さんはすっかり「お嬢様キャラ」が覚醒したようで、姉さんが僕に過剰なスキンシップを仕掛けるたびに、「不潔です!」「破廉恥です!」とお叱りを受けるのが日課になっている。


 例の動画も、本人の目の前で物理的に粉砕・消去した。彼女が心からの笑顔を取り戻してくれたのは、何よりの収穫だ。


 ……けれど。

 蝶野元会長――銀子さんだけは、往生際が悪かった。退学も転校もせず、病院のベッドで父親と何やら不穏な企みを続けているらしい。

 

 姉さんも裏で手は打ってくれているようだが、僕の「悪い予感」だけは、昔からよく当たるんだ。

(……また、胃薬の量が増えそうだな。はぁ)


【蛇沼会拠点・ビルの一室】


 「……若。信じられませんが、あのお嬢様。三〇〇メートル以上離れた俺たちに、完全に気付いてやがりました」

 

 望遠カメラのモニターで生徒会室を監視していた手下が、震える声で報告した。


 「……何だと?」


 「指示通り、若たちが学校を去った後、例の空きビルに監視班を派遣しました。最初はガキ共(蝶野会)が馬鹿騒ぎしていただけでしたが、あのお嬢様が踏み込んでからは……一方的な蹂躙じゅうりんでした」

 

 手下は唾を飲み込み、映像をコマ送りする。


 「はっきり言って、ウチの若い衆を束にしてかかっても、あのお嬢様にステゴロ(素手)で勝てる奴はいません。あの陣内を瞬殺し、三十人をまとめて病院送りにするなんて……」


「……お前がそこまで言うなら間違いねえな。ガキ共とはいえ、あの陣内だけはウチの連中でも勝てる奴は少ないしな!」


 蛇沼は忌々しげに酒を煽った。


 「しかも去り際、間違いなくこのレンズを直視して、中指を立てながらアッカンベーをしやがったんです。レンズの反射も抑え、一筋の光も漏らさないようにしていたはずなのに……!」

 

 蛇沼はモニターを奪い取り、停止した画面を凝視した。そこには、純君の隣で愛らしく微笑みながらも、カメラの向こうの自分を冷酷に射抜く、麗奈の瞳が映っていた。


 「……チッ。正真正銘のバケモノだな。まともに相手をすりゃ、俺たちの命がいくつあっても足りねえ」


 だが、蛇沼の唇が歪な弧を描く。


 「……だが、利用価値はある。この『猛獣』を上手く誘導すりゃ、最近シマを荒らしている目障りな連中を掃除できるかもしれねえ。……よし。毒には毒を、高校生には高校生をぶつける。妹のかおるに、一肌脱いでもらうか」


「えっ、若!? お嬢様をヌードデビューさせるんですか!?」


 バキィィィィィッ!!!

 蛇沼の重い拳が、手下の脳天にめり込んだ。


 「本当に殺すぞコノヤロー! 『力を貸してもらう』って意味だ! お前、義務教育を受けてねえのか!?」

「す、すんませ……(国語辞書買うかな……!)」


 「な、なんですって!? 鬼龍姉弟を逮捕できないですって!?」

 

 所轄の署長室。無理やり退院してきた蝶野銀子は、自らの怒声で傷口を痛め、顔を歪ませながら署長を睨みつけた。

 

 隣では父親の蝶野金造ちょうの・きんぞうが、机を激しく叩いている。


 「どういうことだね、署長君! ワシの可愛い娘がこんな目に遭わされたんだぞ! 立派な傷害罪じゃないか。すぐに逮捕して少年刑務所へ叩き込め。そこでワシの息のかかった連中を……」


 署長は露骨に「はぁ……」と溜息をつくと、力なく首を振った。


 「ですから、お二人のおっしゃる鬼龍姉弟の逮捕は『不可能』なんですよ。……これを見てください」


 署長がデスクに放り出したのは、燦然さんぜんと輝く桜の代紋――警視庁の刻印が入った封筒だった。


 「警視庁の封筒がどうした! 署長、今まで君にどれだけの便宜を図ってやったと思っている! わけのわからない書類で誤魔化すつもりなら……」


 「これは、お嬢様が暴行を受けたと主張される当日に、警視庁から直々に届いたものですよ!」

 

 署長の声に、蝶野親子は目を白黒させた。署長は淡々と、その『公的な回答』を読み上げる。


 「内容はこうです。『本日、警視庁の管轄内にて鬼龍麗奈および純を保護した。理由は、姉の推しているアイドルが急遽引退発表をし、急遽引退コンサートを行うことになった。それに駆けつけるため、弟を伴って東京行きの新幹線に飛び乗ったから』……だそうです」


 「なっ……アイドル……だと……?」


 「ええ。ですが、残念ながら到着時にはすでにコンサートは終了。ガックリと肩を落として深夜の新宿を徘徊していたところを、警視庁の警察官に保護された――と記録されています。

 

 いいですか? 何度も言いますが、この書類は事件の当日に作成され、警視庁の白バイ隊員が凄まじいスピードで我が署へ乗り込み、私に直接手渡したものなんですよ!」

 

 署長は投げやりな態度で背もたれに身を預けた。


 「天下の警視庁が公的に作成した『現認記録』に、私ごときが異議を唱えられるはずがないでしょう。……これで分かりましたか? 彼らには、一分の隙もない完璧なアリバイがあるという意味が」


 「う、嘘よ……! あいつら、あの時確実に生徒会室に……っ!」

 

 銀子が絶叫するが、署長は冷たく目を逸らした。


 「……証言よりも、警視庁の公文書。それがこの国の『法』ですよ、お嬢様」


 「……というわけで蝶野さん。確かにあんたには散々お世話になったが、沈む泥舟に付き合う義理はないんでね。私は一足先に、ボートで脱出させてもらうよ」


 「な、何だと……? どういう意味だ!」


 「ふん、あんたも意外と甘いな。なぜ私が、あんたの屋敷へ駆けつけず『警察署に来てくれれば話を伺いますよ』と誘い出したのか、不思議に思わなかったのかい?」


 署長の冷たい視線に、蝶野金造は絶句した。


 「あんたはもう、蜘蛛の糸に絡まった蝶なのさ。……署長としての最後の仕事だ。あとは頼みますよ!」


 署長が外に声をかけると、扉が跳ね上がり、隙のないスーツ姿の集団が雪崩れ込んできた。


 「蝶野金造だな。殺人、殺人教唆、および贈収賄の容疑で逮捕状が出ている。大人しく同行願おうか」


 「き、貴様ッ! 署長、ワシを裏切るのがどういうことか分かっているのか! この街でワシを逮捕だと? 証拠もなしに……!」


 「あいにく、我々はこの街の警察ではない。県警本部・捜査一課および二課だ。匿名で、あんたの悪事の証拠が山ほど届いてね。これだけ真っ黒じゃ、裁判所もあっさり令状を出してくれたよ。さあ、手錠をかけられたくなければ大人しくしろ」


 「ま、待て! ワシのバックには県議の〇〇先生や、元国会議員の公設第一秘書も……っ! お前のような若造など、すぐに閑職へ追いやって……!」


 「あーはいはい、そういうのは聞き飽きているんですよ。お話は県警の取調室でゆっくり伺います。出がらしのお茶くらいならご馳走しますから」


 刑事が金造の腕を掴んだその時、別の集団が署長室になだれ込んできた。


 「おっと……県警さん、先を越されちゃいましたか。まいったねぇ」


 「……あんたたちは?」


 「国税局査察部マルサの者です。こちらの蝶野さんに多額の脱税容疑がありましてね。匿名のタレコミがあまりに完璧だったもので、無視するわけにはいかなくて。自宅と事務所のガサ入れはすでに終わっています。警察さんの取り調べの合間で構いませんので、ウチにも少し時間を割いていただけますかね?」


 「ふん、構わんよ。……あんたたち、金の回収が至上命令の守銭奴と違って、我々は犯罪者を挙げるのが仕事だからな」


 「こりゃ手厳しい。ですが、あなた方の給料も捜査費用も、すべてアタシらが回収した税金から出ていることをお忘れなく!」


 「……チッ。おい、連行しろ! 抵抗するなら手錠を使え!」


 「ま、待ってくれ! 〇〇さんに連絡を……あの人なら必ず……っ!」


 子供のように駄々をこねる金造を、県警の刑事たちは冷ややかに一蹴し、力ずくで連行していった


 「パパ……パパ……っ! あんたたち、何するのよ! パパ、大丈夫よね……?」


 力なく連行されていく父親の後ろ姿を、銀子はただ呆然と見送るしかなかった。

 

 震える彼女の前に、別の刑事たちが立ちはだかる。その冷徹な眼差しは、罪人を追い詰める猟犬のそれだった。


 「蝶野銀子だな。……あなたにも、殺人および死体遺棄罪の容疑がかかっている。いいか、あなたはもう十八歳だ。改正少年法により『特定少年』として、成人並みの厳しい裁きを受けることになる。覚悟するんだな」


 刑事の宣告に、銀子の顔はみるみる土気色に変わっていった。だが、彼女は震える声を振り絞り、なおも気丈に振る舞おうとする。


 「さ、殺人……? 何のことよ! 私は、善良な高校生よっ!」


 「……ほう。なら、その善良さを証明してもらいましょうか。安心しなさい。行き先はまだ取調室じゃない。……もっとも、逮捕状が出ている以上、あなたに拒否権はないがね」

 

 刑事が冷たく告げ、銀子の細い手首に冷たい金属の感触が走った。


 「行き先は、あなたの『城』だった場所――八神学園・生徒会室だ」


 「きっかけは、ある生徒からの『匿名のタレコミ』だったんですよ。……何でも、入学早々に生徒会長に就任したあなたのことを、その生徒は純粋に不思議に思ったそうでね」


 パトカーの狭い車内で、刑事は淡々と、しかし逃げ場のない言葉を銀子に突きつけた。

 

 「通常、生徒会選挙は二学期のはず。なのに、なぜ一年生がトップになれたのか? 調べてみれば、戦前から残っていたカビの生えたような校則……『生徒会長がやむを得ない事情で学校を離れる場合、指名した生徒に生徒会長の座を譲れる』という、漫画のような規定が見つかった。……そのタレコミ主は古い漫画が大好きで、しかも将来検事志望だということで、どうしても前会長に、その校則を見つけた経緯を聞きたがっていたんですよ」

 

 銀子は真っ青な顔で、カタカタと奥歯を鳴らした。


「だが、前会長は別の海外に赴任中の両親とも連絡が取れず、出国記録も一切ない。両親に毎月届くメールも、本人の文体とは似ても似つかない代物だった。……さて、蝶野さん。これは一体、どういうことですかね?」


 パトカーの中で刑事に淡々と告げられ、銀子は顔を真っ青にしてブルブル震えていた。


 「さあ、着きましたよ。君にとっては馴染み深い場所でしょう?」


 銀子が顔を上げると、そこは自分の学び舎――いや、かつての『牙城』であった八神学園だった。


 放課後の静まり返った校舎。銀子は警官に挟まれ、誰にも会うことなく最上階の生徒会長室へと連行された。


「おやおや。ここが学び舎とは呆れる。酒の臭いが染み付いているな……。だが、お嬢様。私は人一倍、鼻が利きましてね。ここには酒の香りを上回る、別の『臭い』が漂っている。……我々が商売柄、嫌というほど嗅いできた臭いです。何の臭いだと思います?」


 刑事は銀子の背後に回り、その耳元で冷酷にささやいた。


 「――腐敗臭。いわゆる、『死体』の臭いですよ」


 瞬間、銀子の顔は青ざめるのを通り越し、死人のような蒼白へと変わった。


 刑事はさらに淡々と、銀子に言葉の刃を突きつける。


 「この生徒会室も、君が会長になってすぐに大改装したそうですね。施工はすべて君の父親の息がかかった業者だ。『娘の生徒会長就任祝いだから』といわれて、突貫工事で、授業中も構わず進めさせたとか」


 刑事は銀子の目の前で、古びた設計図を広げた。


 「業者は言っていましたよ。学校だというのに不自然なほど巨大なバーカウンターを作らされたが、なぜか内部に奇妙な収蔵スペースを設けるよう指示されたと。しかも、最後の内装仕上げだけは別の業者が行うからと、急に追い出された……。相場の倍近い金を積まれたおかげで、彼らも今の今まで黙っていたそうですがね」


 銀子はその場にヘナヘナと崩れ落ちた。もはや、立っている力すら残っていない。


 「よし、始めろ。学園からは許可を取ってある。……取り壊せ!」


 捜査員たちがバールや電動工具でカウンターを解体し始める。銀子は頭を振り乱し、「嫌、嫌……私、関係ない……」とうわ言のように呟き始めた。


 ――バリバリッ、ガシャァァンッ!!

 重厚な木材が剥がされた、その瞬間。


 「……顔を上げろ。これが、君の犯した罪の証拠だ」

 

 無惨に暴かれたカウンターの奥から、三年間闇に閉ざされていた白骨が姿を現した。


 「考えたものだ。山に埋めれば野犬に掘り返される。家の基礎に埋めれば火事で露見するリスクがある。……そこで君は、自分の目の前に隠した。高校生の分際で毎日酒浸りだったのも、酒の匂いで腐敗臭をごまかすためだったんだろう? 君の酒癖の悪さは中学時代から有名だったから、誰も不審に思わなかったわけだ」

 

 銀子は、ついに狂ったように叫び出した。


 「だって、だって! あの男が悪いのよ! この私が、私の方から口説いてあげたのよ!? それなのに……『学生の間は勉学に集中したい。それに君のような女性は趣味じゃない』なんて吐かしやがったのよぉっ! 許せるわけないじゃない!!」

 

 彼女は前歯のない口を歪め、嗚咽おえつを漏らす。


 「……気づいたら、そばにあったトロフィーで殴りつけていたわ。慌ててパパに連絡したら、『そういう荒事得意な連中に連絡したから任せろ』って……。でも、毎晩あいつの顔が浮かぶから、酒を飲まなきゃ眠れなくて……っ!!」


 「……続きは県警で聞かせてもらおう。良かったな。これから君は、一滴の酒も飲めない場所へご招待だ」


 刑事が冷たく手錠をかける。


 「君はもう十八歳だ。改正少年法により『特定少年』として裁かれる。少年院ではなく、刑務所で十年以上を過ごすことになるだろう。……出所する頃には、酒も抜けて、すっかり健康な体になっているはずだよ」


  オマケ①

 留置所。面会室の厚いアクリル越しに、銀子はやっと父親との再会を果たした。今は容疑者の蝶野金造は、見る影もなくやつれていたが、娘を安心させるように無理な笑みを作った。


 「娘よ、安心しろ! 我が家の顧問弁護士は超一流だ。あの三年前、お前のために古い校則を見つけ出し、『これを使えば一石二鳥です。1年生が会長になれば話題性が増し、前会長の失踪に誰も疑問を抱かなくなります』と助言した男だぞ! 海外の両親へ偽装メールを送る手配まで完璧にこなした男だ。今度も、必ずなんとかしてくれるさ……!」

 

 父親の力強い言葉に、銀子の瞳に希望の光が戻りかけた。……その時だった。

 

 無機質な鉄格子の向こうから、一人の刑事が冷笑を浮かべて現れた。


 「……言い忘れていましたが。その『優秀な弁護士』さんなら、たった今、自首してきましたよ。山のような証拠書類を抱えてね」


 「な、何だと……っ!?」


 「なんでも、事務所の階段から派手に転げ落ちたショックで、急に『良心』に目覚めたんだそうです。……全身を包帯でぐるぐる巻きにして、ガタガタと震えながらね。『女子高生が怖い、女顔のチビがもっと怖い!』と、わけのわからない譫言うわごとを繰り返していましたよ。一体、何に怯えているんでしょうねぇ?」


 蝶野金造の顔から、最後の血の気が失せた。

 

 彼らが誇っていた鉄壁の『盾』は、すでに麗奈と純による『お仕置き』で、見るも無惨に粉砕されていたのだ。


 「……あ、あ、あああああ……っ!!」


 銀子の絶叫が、防音の壁に虚しく響く。

 

 一方その頃、当の「女顔のチビ」は、夕暮れの街角で平和に独り言を漏らしていた。

 

「……はぁ。あの弁護士さん、階段で転んだだけであんなに反省してくれるなんて。世の中、まだまだ捨てたもんじゃないね、姉さん」


 「そうね、純君! やっぱり『誠意(物理)』って、言葉で言うより伝わるものなのね♥」

 沈みゆく夕日を背に、二人は仲良く手を繋いで歩き出す。


 その足元には、誰にも見つからないように処分されたはずの、弁護士の『折れたプライド』が転がっているようだった。


   オマケ②

 「温泉には行けなかったけど、二人で銭湯なんて久しぶりだね、純君♥」

 

「そうだね。急にお風呂が壊れるなんて……父さんも母さんも仕事で泊まり込みの日で良かったよ」

 

「も〜う、純君たらロマンがないんだからぁ!」

 

 銭湯の入り口。流石にここからは別々だ。僕は念のため、姉さんに釘を刺した。

 

「いい、姉さん。絶対に男湯に突入してこないでよ!」

 

「失礼ね。私が興味あるのは、純君の裸だけよ♥」

(……それが一番危ないんだよ!)


 まったく、純君てどうしてこう普段は朴念仁なのかしら?その時、男湯から純君の悲鳴が聞こえた!


 「純君!何事?」


  慌てて男湯の脱衣場に突撃した私の目の前で、番台さんからマンガを奪い取って、血走った目でペラペラとページめくっている純君が!


 「ま、間違いない!こ、これぞ40年以上の長期連載誇った伝説の下町ギャグマンガの傑作『こちら港区、芝公園前派出所』、通称『こち芝』の第1巻の初版本!す、すごい、主人公のぜにさんが、道尋ねに来た○○県民追い返して、『○○県民は麦だけ作っていりゃいいんだ!』なんて、今じゃ絶対表現できないことまで描いているよ!こ、これぞ初版本の醍醐味!お、おっちゃん!こ、これ売って頂戴!お年玉全部差し出すよ!」


 「はぁ……、純君が私と混浴してくれるのは、いつの日かしら?」


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