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スペクルム ” 印を持つ者と7人の魔導師達”


   61面


 指先に灯る炎でごく小さい炉に火を付ける、銀を溶かすための炉である。銀を溶かし型に流し込む。

 ここは装飾品を主に作る工房だ。


「こんちは、ジョセフ」

「やぁ〜久しぶりだねイクシス、今日はなんだい?」

「指輪を作ってもらいたくて」

「お!!いよいよ結婚か!」

「ち、違うよ!!」 突拍子もない返しに変な汗をかいた。

「何だ違うのか、君たち七人はいつになったら結婚するんだ、誰かいないのか?」

 

 眉間を押さえ考え込む、そんな奴誰もいない浮いた話も聞いた事ない、良いことなのか?


「そんなに考え込まないといけないとは……ハハハ」

 ちょっとバカにしたような呆れているような笑いに頭をポリポリとかいた。


「いつか出来るといいなと思ってますよ、七人とも。で、この石を付けたいのですが」

「どれ、おおわかった」

「どれくらいかかりそうですか?」

「そうだな、石は自分で付けるのか?石を付けなくていいんなら半月ほどで出来るよ」

「うん、石はこっちで付けるから。半月で作ってもらえるなんてありがたいよ」

「じゃ出来たら連絡するよ」


 工房を後にしてイクシスは移時日記室に帰ってきた。


「おかえり、イクシス」

「ただいま。スペクルムを造るの手伝って欲しい」

「満月の夜にまた行くか」

「これ複製できないかな……魔法陣で」

「ああ、できなくは無いかもでけど全く同じ物になるかな?いざという役に立たなかったら最悪だぞ」

「それもそうか。次の満月はいつだっけ」「半月後だったと思う」

 顎の手を当てイクシスは考えた、指輪も半月かかるって言っていた丁度いいか。


「指輪はいつ出来るって」

「丁度半月後だって」

「じゃ丁度いいじゃないか、次の満月にみんなで行こう、テシウスにも渡さないといけなんだろ?」

「そうだった」

「イクシスは時々抜けてるよね」眉をはの字にしてウィーゴが言った。

「やめてくれそんな顔で見るの、なんか切ない」

 ハッと思い出したように小さな声で呟いた。


「双子の王女にもあげないといけなかった」

「ほら やっぱりぬけてる」


  聞こえてたのか……バツの悪そうな顔をして頭をポリポリかいていた。

 そしてまた何かに気づいたように慌てて飛び出して行った。


「ごめん……ちょっと言い忘れてた」

 かなり焦った様子で慌てて出て行った、顔色は最悪だった。ジョセフの所に転がるように来て言った

「もう三つ造って欲しい、言い忘れてた」

「そんなに焦らなくても大丈夫だ 。で、結局何個だ?」

「全部で四個だ」

「四個か、半月じゃ出来ないけどいいか?」

「二つだけ先にできるかな?」

「二十日ほどくれるかい? それなら四個造れるが」

「二十日だね、じゃあそれでお願いします」

「了解!」


一安心と言った表情で帰った。



62面


「もう忘れた事は無いか?」

「ああ」苦笑いを浮かべた。

「石はそれぞれの特性の色で造ってもらうことにした、クリスタル、赤、紫、国王はピンクだ」

「魔法陣の方はどんな感じ?」

「陣はこうした、最初スペクルムに石を当てたら発動するようにしようと思った、でも首に掛けたスペクルムを服の中から出すのは手間だなって思って、そこで石に口びるを触れさせるだけにしたんだ、それなら咄嗟の時でも簡単に出来る。万が一話せない状態でも繋がっていればある程度の情報が相手に伝わる、危険を知らせるには充分だと思う」

「さすがイクシスだ!!」

「発動させてみるから試しに付き合ってくれ」


 そう言ってイクシスは紙に描いた陣にそっと口付けた 。サジアルのスペクルムがゆっくりと光った。


「サジアル聞こえるかい?」

「おおー 聞こえるよちゃんと」

「うん これでいいね!」

「半月後には出来るって?」

「いや、二十日ほど欲しいって数を増やしたからね」

「じゃー先にスペクルムを創りに行こうよ満月の夜に」

「良いね賛成」


 半月後。


「今日は雲が多いね月見えるかな?」

「とりあえず行ってみるか」


 七人は森へ……雲が月を隠していたが、何故か行かない選択肢は無いと七人とも思っていた。その事を口にすることもなかった。

 七人がその場所へ着いた時だった、まるで神が味方したように雲が切れて満月が姿を現した。


「凄い幸運だ」

「さあ始めよう」

 七人は陣を発動させスペクルムを創り四等分に分けた。

「前回よりスムーズに出来たね」 七人とも満足した。

「そうだ!今回ここにも魔法陣描いて帰ろう」

「賛成だ」


 指輪を撮りに行く日が来た。


「こんにちは、指輪を取りに来たよ出来てるかい?」

「いらっしゃい出来てるよ、見てくれこれでどうかな?」

「うん、いい出来ださすが!」


 スペクルムも指輪もできた、明日にでもイージスへと向かう事にした。今回はホウブルに作った魔法陣で向かう事にした。

 ホウブル側の魔法陣が足元から光るゆっくりとイクシすの姿が現れた。


「わぁ!!」 裏庭で草魔法の練習をしていたテシウスの顔がひきつった。

「わぁ!」 イクシスもその声に驚いた。

 顔を見合わせお互いの姿を確認してホッと胸を撫で下ろす。


「やあ、おどろかせてすまない」

「ちょっとびっくりしたけど……」

「テシウス今日は指輪とスペクルムのペンダントを持って来たんだけど陛下に連絡して欲しいんだ、何時なら会えるか聞いてほしい」

「うんノエルを飛ばすよ、ただ今大変な時で直ぐには会えないかもしれない」

「ああそうだね……もしあまり早くに会えないようならテシウス、君に使い方を教えるから陛下に伝えて欲しい、出来るかい?」

「うん、出来る。やるよ!」


 テシウスの指にはめた指輪は彼の指にピタリと合うサイズになった。

「あ、僕の指に……」

「びっくりしたかい?」

「うん、凄い。父上の指にもちゃんと合うんだよね?」

 優しいイクシスの笑顔がテシウスにとって何よりの安心を与えていた。


「それとこれ、後ろを向いて」

 ぺクルムのペンダントを取り出しテシウスの首にかけてやった。

「これも僕の?」

「そうだ、まずこの指輪にそっとキスをして」

「え!!キス!」 頬を赤らめて恥ずかしそうにしている、可愛いな。こちらの心まで和らぐようだ。


   

   63面


 一通りの使い方をテシウスに伝えた。


「僕の部屋に来てくれない? 移動魔法陣描いたんだ」

「描いてみたんだね、よし行ってみよう」

「ジョルゼンとマルコエルは訓練場に行ってるんだ、今なら見つかる心配はないと思う」


 二人は頷きテシウスの部屋に移動した。


「この部屋は寝室だから誰も来ないよ、隣は僕の執務室だよ。ここで待ってって図書室に行って移動魔法陣を描いてくる、あそこなら隠れる所があるから。これから僕がよく行くところには陣を描いておこうと思うんだ」


 まだ子供なのに……大人に守られて成長していくはずなのに国が混乱さえしていなければ……


「ここで待ってる行っておいで」 

 にっこり笑って部屋を出た。


 十五分程経っただろうか。

 コンコンコン ノックの音にビクッと肩が震えた。 咄嗟に姿を隠す。


「テシウス様……あれ?どちらに行かれたんだ?」

「ジョルゼン?テシウス様は?」

「いらっしゃらないのか?どちらに行かれたんだ?」

「図書室だろうか?」


 バタンと扉を閉める音がした。

 思わず息をゆっくり吐いた、心臓に悪いな。

 

 程なくして話し声が聞こえてきた。まだ、姿は表さない方がいいようだ。


「テシウス様、どちらに行かれていたのですか?」

「ジョルゼン、図書室に行っていたんだ」


 二、三冊の本を抱えてテシウスがにこりと笑った。


「共も連れず……」

「大丈夫だよ、ここにいる人のことはみんな知っているから」

 二人の間を抜けて自室に入っていった。

「少し本を読むから……夕食の時に呼びに来て」

「畏まりました」


 静かに扉を閉め外の音を確認して本を机に置いて寝室へと入った。


 部屋に入ってイクシスの姿がないことにビックリした、焦った声ではあったが小さく名前を呼んだ。

「イクシス?イクシス?」


 ゆっくりと姿を現しニコリと笑った。

「テシウスここだよ」

 安心したように走ってこちらにやって来た。


「どこに行ったのかと思ったよ。魔法陣描いて来たよ!早速さっそく行ってみよう」

「あの二人は大丈夫かい?」

「うん大丈夫夕食まで来ないよ、でももしもの事を考えてなるべく早く帰ろう」

「じゃあ急ごうか」


 ベットの側に描いた陣を起動させた二人の姿が淡い光に包まれて消えていった。


   64面


 図書室の一番奥の棚と棚の間、床が淡く光って二人の姿が現れた。


「イクシスここが図書室だよ左側に行くと出入り口があるけどそこからは出ないでね僕と一緒の時だけだよ」

 静かに頷いてイクシすは言った。


「テシウス今度はここから裏庭の陣へ移動してみよう。それからまたこの図書室へ移動して……陣を作った所覚えてるだろ全て行ってみよう。僕は何もしないからね連れて行ってくれるかい?」

「コーライズの図書室にも行くって事だよね!」

「そう」

 少し不安そうな顔をしていたが、大きく頷きイクシスの手をとった。


 裏庭、図書室、寝室、コーライズ、また裏庭そして最後に寝室へ帰った。

「成功だ、よく出来たね」

「本当に!!」


 褒められて彼の瞳がキラキラ輝いていた。


「じゃあ僕は今日は帰るね、陛下に連絡が取れたらいつこちらに来れるか教えて、指輪を使ってね」

 イクシスはちゃめっ気たっぷりにウインクをして見せた。


「次に来た時は水魔法の練習をしてみよう、この前渡したノートを見てみて水魔法も書いてあるから」

「はい、次に会えるのを楽しみに待ってます」


 イクシスは少し不安を感じながらその場を後にした。


 次の日、イクシスは二つの指輪とペンダントを持ってフィヨルドに向かった。


「お久しぶりですイクシス様」

「王女たちは元気でしょうか?今日は渡したい者と魔法の練習のために来ました」

「はい、お二人とももう時期来られます」


 ドアが勢いよく開けられた。

「これ姫様!!はしたない」

「ごめんなさい」


 よほど待ち遠しかったのか……

「こんなに喜んでもらえるなんて嬉しい限りです王女様」

「イクシス様いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませイクシス様」


 完璧なカーテシーだ。

「王女様にはご機嫌麗しく存じます。早速ですがこれをお二人に」


 イクシスはノートを一冊づつと指輪、スペクルムのペンダントを二人に渡した。二人はキラキラと瞳を輝かせ

「イクシス様これは何ですの?」

「二人にプレゼントですよ、ノートに書かれているのはこれから必要になるであろう魔法陣が描かれています」

「魔法陣?」

「今日からここに描かれている魔法陣で魔法の練習を始めよう」


 二人の顔がパーッと花が咲いたように明るくなる。

「今までの魔法とは違うのですか?」

「今までのは自分自身が持っている特性を伸ばすための基礎訓練だったんだよ、これからそのノートに描かれている魔法陣を覚えるんだ……」

「全部?」「全部?」 二人は顔を見合わせニコリと笑った。


「このペンダントは、ソニアとマリールの持っている色のスペクルムだよ、そして指輪の石もそうだよ」

「持っている色? あ! 紫と赤でしたよね。お姉様が紫私が赤でした」


 人とりの説明を二人にして、移動魔法陣を描く練習をする事にする。


   

   65面


 三人は裏庭にやって来た。

「王女様よく見ておいてください。”主たるイクシスが創る空間の移動陣”」


 そう言って裏庭にある一番大きな木の下に魔法陣を描いた。


「す、凄い! イクシス様!」

「テシウスもそう言ったよ」

「テシウスも?テシウスも習ったのですかこの魔術を」

 小さく頷き 「テシウスはもう魔法陣を自分で描けるよ、寝室や図書室、裏庭、それから私達の国コーライズにも移動しました」

「え!!イクシス様の国ですか?私達も行きたいです、連れてってください」

「まずは移動魔法陣を覚える所からです」


 その後書き方と消し方を何度も練習した。


「イクシス様、今日は一人でいらしたのですね」

「ええ、この後国王陛下に謁見できますか?」

「今日イクシス様がこちらに来ることは知っていますので後ほど来ると思います、何かありましたか?」

「実は、今度テシウスをこちらの国に連れてこようと思っています」

「え!テシウスをですか?大丈夫でしょうかもし……」

 ソニアの言葉を遮り

「心配はいりません私達と同じ服を着て弟子として連れて来ます、容姿も私達と同じ印持ちですし露見する事はないと思います」


 二人は安堵の表情を見せた。イクシスは二人にイージスの国内の反乱の話をするかどうか迷っていた。まだ六歳、他国の情勢など政治的な事は分からないはず、ましてや国交の無いイージスの事など……


「イクシス様、私達もテシウスの国に行く事が出来ますか?」


 先ほど考えていた事を思うと……

「いや、それはちょっと難しいと思う」

「それは何故ですか?」少し時間を置いてイクシスは言った。

「ここだけの話に出来ますか?」


 二人は大きく頷いて 「出来ます」 ハッキリ答えた。


「詳しくは話せませんが、簡単に言うとイージスの国内に問題があります、御二方を危険な所には連れて行けません。理解して頂けましたでしょうか?」


 とても残念だった。まだ幼い二人だが自分の立場と同じテシウスの事、国内の勢力の傾きで自分たちの地位もガラッと変わる事ぐらいは解っているつもりだ。


「うん、解った。テシウスがこちらに来てくれる事を楽しみに待っていますね」

「理解してくれてありがとう、ではそろそろ帰りましょうかお部屋へ」

「はい」


 部屋へ移動した三人は、それぞれの部屋に移動魔法陣を描くように伝えた、そして今日描いた裏庭とこの部屋そしてコーライズへ移動出来るようにしておくように言った。

 二人は不思議そうな顔をしていたが先ほどのイクシスの話を思い出した。声を揃えて

「分かりました」 そう答えた。


 程なく陛下がやって来た。

「久しいなイクシス」

「陛下にはご機嫌麗しく存じます」

「父上ご機嫌麗しく存じます」

「うん、変わりないか? ん?指輪か?それはどうしたのだ?」

「陛下、この指輪は私からのプレゼントです、御二方をお守りする陣が描いたございます」

「それは有難いことだ、二人はこの国にとって重要な王女だ」


 返答に困っていた二人はイクシスの即座の返答に助けられた。


「陛下、一つお願いがあります」

「言ってみなさい」

「はい、実はこの度弟子を一人取りまして、コーライズにとっても私の魔術の継承者が必要とされています、つきましては次回来る時その者を同行させたいのですがよろしいでしょうか?何せ七人ともまだ結婚もしておりませんので」


 自嘲気味に言ったイクシスを見て国王も微笑み

「分かった、連れてくることを許そう」

「ありがとうございます」

 次回の約束をしてイクシスは城を後にした。



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