スペクルム ” 印を持つ者と7人の魔導師達”
57面
大陸の中でも東のイージスは他の三国とは国交がない特殊な国である。船においての技術は同じ海に面している南のサジュアルをはるかに凌ぐ。北にはピルクール山脈からの雪解け水の恩恵を受け作物も良く育つ肥沃な土地を有する豊かな国だ、だが今この国を揺るがす問題が内部からじわじわと迫っている。
「テシウスの存在を明らかにする事は……お考えにならないのですか?」
沈黙が続く。
「それを考えなかった訳ではない、だが二人の子供である事は紛れもない事実だがテシウスの容姿が二人には全く似ていないのだ。この国に黄金の髪を持った者は誰一人居ない、当然私達夫婦にも似ていない、瞳の色も。誰が二人の子供だと認める、それこそ王妃が不貞をしたと言われるのがおちだ」
イクシスとハントは言葉がなかった、私たちにできることなど何も無い。
「そこで二人にお願いしたいのだ、もし万が一私達に何かあった時はテシウスのことをお願いしたい。この国にはテシウスの事を頼める人物が居ない、どうか頼む」
深々と頭を垂れる。
国王が私達位の低い者、ましてや他国の訳も分からない者に対して頭を下げるなどあり得ない話だ。
「私達に出来ることは無いでしょう、ですが彼、テシウスを匿うことはできます」
「必ず守って見せます」
その言葉を聞いて国王は……
「四人で話したい、席を外してくれ」
そう言うと護衛騎士を部屋の外に出るよう促した。
「ですが陛下……」
「大丈夫だ」
ハッキリした口調で護衛騎士に出るよう言った。
イクシスとハントの視線が合う、これは?
「今から話す事は誰にも漏らさないでほしい。テシウスよく聞きなさい今から話すことはここだけの話だ絶対に誰にも言うな、ジョルゼンとマルコエルにもだ、シリウスとハント以外誰も信じてはいけない」
「陛下、それは……」
「誰かがテシウスの事を漏らしたとしか思えない、ここ子が生まれた事を知っているのはごく少数の者しか知りません、この北の別荘のホウブルも知っている者が少ないのです、ですから四人だけで話したいと思います」
「父上……母上やエリーシャは大丈夫なのでしょうか?」
「心配には及ばん私達は大丈夫だ」
父上の大丈夫と言う言葉を聞いてもテシウスは不安でならなかった、もし、三人に何かあったら僕は、汗ばんだ手のひらを握りしめた。
「もし何かあった時は今日裏庭に移動魔法陣を描きました、テシウスと私達三人しか知りません、テシウス魔法陣のことは言わないように、もし聞かれたら草魔法を練習していたと言いなさい。解ったか?」
「うん、解った」 大きく頷いた。
陛下は不安そうに二人に尋ねた。
「移動魔法陣でどこに移動するのですか?」
「安心してください、あの魔法陣で移動すれのは私達の国コーライズです。それに魔法が使える者と一緒でなければ移動はできませんこの国には彼、テシウスだけです。魔法が使えるのは」
その一言で陛下の顔は安堵の表情に戻った。
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その後陛下と連絡を取る為の手段を話し合った。伝書鳩のノエルを使うのが手っ取り早い方法だったがノエルは護衛騎士が使うため違う方法を取らなければならなかった。
「陛下、これを」
そう言ってイクシスは首から下げたスペクルムを見せた。
「それは何だ?」
「これはスペクルムと言います、未来の事柄が見えたりします。実はこれに城が炎上するのが写ったのです、陛下の話を聞いて炎上した城はこのイージスの城だと確信しました」
それは二人にとってかなりショッキングな言葉だった。
「炎上?」
「父上!」
「いつ頃起こる事なのかわからないのか?」
「時期まではわかりません。不安になる気持ちは理解できます、ですが事前に分かっていることで逃げるためのルート、手段を今から考えましょう」
「ああ、そうだな」国王の眉間に刻まれた深い皺が苦悩の深さのように思えた。
何やらこめかみを抑えシリウスは考え始めた。少し長い沈黙の後話し始めた。
「まず、このスペクルムをお渡しします。陛下には魔法が使えませんそれで私達は帰ってから指輪を作って来ますその指輪とスペクルムを使って私達、そしてテシウスと連絡をとりましょう、詳細は指輪を作って来てからもう一度話しましょう、ですが一つ懸念が」
「何でしょうか?」
ハントも神妙な面持ちで
「陛下は護衛騎士も信じておられないようですが次回も四人だけの話し合いとなりますと不信感を抱かれるのではと思って」
「確かにその懸念はあります、がしかし、逆にこの様な事態だからこそこのホウブルに来る事に疑いを待つことは無いのではないか」
そうか、そうとも言える、顔を見合わせイクシスとハントは頷いた。
「では次回いつにするか決めておきましょう」
「ああ、それでその指輪はいつ頃できそうか?」
「一ヶ月ほどは掛かると思います、それまでに何か大きく動くでしょうか?」
「何とも言えない、もしかしたら今日四人で話すことで何らかの情報が漏れれば……逆にジョルゼンとマルコエルのどちらかが情報を漏らしているか、あるいは二人共が」
そう言って陛下は最悪の事態もあるのでは無いかと示唆した。
「もしそうだとしたら……テシウスが危険に晒されるのではと思っています」
「もしそうなった場合は、テシウス、直ぐ移動魔法陣でこちらに来なさい」
「今日練習しただろ、出来るな!」
「うん!任しといて、出す時は陣を思い浮かべて手をかざす。だよね」
「そうだ、偉いぞ!!」
「父上心配いりません僕は自分の身は守れます」
柔らかく微笑んだ陛下の顔は一国の国王と言うより一人の父親の顔をしていた。
「丁度っ良かったと言えばいいのかわかりませんが、今日ここに来た理由の一つにテシウスを転移魔法陣で私達の国に連れて行きたかったのですが……いいでしょうか?」
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「テシウス、ここがコーライズだよ」
ギュッとつむった目をゆっくりと開けた、インクの微かな匂いと紙の匂い図書室だ。
「転移魔法でここに来れるんだね」
「そうだよ。この景色よく覚えておきなさい、もしもの時あの裏庭からここに来るんだよ、いいね」
「もし、誰かに見つかったらどうなるの、ここまで悪い奴らが来たら?」
「心配いらないよ、転移した瞬間に魔法陣は消える、魔法陣を描くことが出来ない者は転移はできない」
その言葉を聞いてテシウスの顔が安堵の表情に変わった。
「ここはコーライズの図書室なの?」
「ここは移時日記室だ」
「移時日記?」
テシウスにとっては聞いたことのない言葉。
「移時日記、言葉どおり日記なのだけどね、その日付の日に移動することが出来るんだ」
「え!! そ そんなこと出来るの、それも魔法なの?」
「ふふ、実は僕達は移動できないんだ。情けない事に勉強不足でね、この移時日記ができた経緯もハッキリ分かってなくて……」
ハントが話をそらした。
「ここにはテシウスと同じ容姿の人ばかりだ、外に出ても誰も変に思わないから安心して」
「僕達二人の他にあと五人いるんだよ、七人でこの国を管理させてもらってるんだ」
「凄い、それって父上と同じ国王って事?」
「テシウスの父上とは違うな。この国はみんな魔法が使える、ただ人によって魔力に差があるんだ、七人はこの国を最初に創ったとされている直系なんだ、理解できた?」
「うーん、何となく」
「よし、そろそろ帰ろう時間が経つと怪しまれる」
テシウスを送り届けてコーライズに戻って来た二人は、指輪を作る準備を始めた。
三時間前、サジアル、ジル、トゥーリオ、カロナ、ウィーゴの五人は森を川に沿って進んでいた。
「からこれ三時間ぐらい歩いてるよね、もう少し行ったら海が見えるかな?」
「お!見えてきた」
潮の香りがしてきた波音も聞こえる、思わず五人は走り出して。
「海だ!」
本でしか見た事の無い海、白い砂浜はコーライズでは当然見たこともなく五人は不思議な胸の高鳴りを感じた。
ふと、ジルがふと足をとめ自分の右側に視線を向けた、そこには白い司祭服を着た人が立っていた、シルバーゴルドに輝く長い髪が風になびいて神秘的なその人物がこちらに視線を向けた。
思わずジルは隣にいたサジアルの服を引っ張った。
「な、何だ?」
「ねえ見てあれ!あそこに人がいるんだ」
その声でみんなが一斉にそこに立っている人物に目がいった。五人と目が合った、一瞬の出来事だった、スッとその人物は消えたのだ。
「おい!まってくれ」
五人は一斉に走り出す、そこにいたはずの人物を追って。
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初めて触れた砂浜、足を取られ思うように進めない。
「げ!!走りにくい」
ようやく先程までいた人物の所にたどり着いた。
カロナはその人物が立っていた足跡にそっと触れる。
「魔法の残滓がある、どこに行ったかまではわからない」
「いったい誰だったんだろうか?」
「生きている人には思えないぐらい透明な人だった……」
「幽霊みたいだったね」
「さっきの人は、今行き詰まっている事柄を解くための答えをくれる人なのだろうか?」
「少し森に入った所に転移魔法陣書いて帰ろうよ」
「初、転移魔法陣!ちゃんと描けるかな」
「人ごとみたいに言うなよ」
空間魔法が使えるウィーゴが転移魔法陣を描く
「用意はいい!じゃー帰ろ」
シューと音を立てて移時日記室に五人が帰って来た。周りを見渡して一言。
「おー成功した、どこか他所に行ったらどうしようかと思ったよ」
「俺が一番ビビってるよ」
魔法陣を描いたウィーゴがボソッと呟く
「おかえり」
「ただいま」
「で、どうだった、何か手掛かりになるような物は見つかったかい」
「うん、手掛かりになるかっどうか分かんないけど、川に沿って海岸まで行ったんだそこで人を見たんだけど、透明な人だった」
イクシスとハントはこいつ大丈夫か?と言わんばかりの目で見ている。
「と、透明って……ちゃんと人だったのかそれ」
「ちゃんと人だったよ!でも生きてる感じがしなかったなぁ〜、白い祭事服にシルバーゴルドの髪で神秘的な人だった」
「転移魔法でどっかに消えた、残滓はあったけどどこに行ったかまでは全然わかんなかったよ」
「他には気づいたこととか何か見つかった?」
「いや、なにも」
その人物は誰だったんだろうか?シルバーゴールドの髪?見た事ないし聞いたこともないな今まで。
「それより、イクシスの方はどう?」
「そうだ!僕達の方は……」
そう言ってこれまでの経緯を説明した。
「指輪?それで指輪をどうするの?」
「指輪の中に魔法陣を描く僕のスペクルムを渡して来たから指輪を身に付けることでスペクルム同士で会話を可能にする、万が一のことがあった時はすぐ連絡できるようにしておきたい」
「なるほど、テシウスの方は転移に問題はなさそうか?」
「うん君たちが帰ってくる前にここに連れて来たんだ、この移時日記室をちゃんと目に焼き付けて帰ったよ」
「スペクルムに映った城の炎上、いつ頃起こるのか……わからないよな」
「陛下にも聞かれたよ実際それが一番気がかりな所だよ、指輪が間に合って欲しい」
「今から指輪を造ってもらいに行って来る、あと僕のスペクルムを渡したからそれも造っておかないと、テシウスの分も」
「じゃ行ってくるよ」
そう言ってイクシスは部屋を後にした。




