スペクルム ” 印を持つ者と7人の魔導師達”
66面
一度帰って来たイクシス、テシウスの洋服を揃えたりフィヨルドに連れて行くための準備をし返事を待っていた。
かれこれ二週間が過ぎた。しかしテシウスからの連絡はまだ来ないままだった。
国内の情勢がよほど悪いのだろうか?
何かあったのだろうか?
だがスペクルムには特に反応はなく時間だけが過ぎて行った。
“ここはイージス”
父上からの返事が来ない、イクシスと会ってから二人にはバレないようにノエルを飛ばした、もう三週間が来るのに…… やっぱり父上達に何かあったんだ。
国内が安定していない事は僕は知らないことになっている、二人に聞きたいけど、どちらも敵かもしれない、どうすればいいんだ……
勢いよく開いた扉から宰相のセシウスが入って来た。
「陛下、急ぎお伝えしたい事が」
「セシウス何事だ」
「王弟陛下が私兵を集め始めたようです」
「そうか、動き始めたか」
「どういたしますか?」
指輪を作るのに一ヶ月は掛かるとしてそろそろ連絡が来るはずだが、裏切っているのは誰だろうか?カーチスは決めかねていた。
「ジョルゼンとマルコエルをこちらに戻そう、代わりにユーハイトとルイスを行かせよう」
「陛下、それでは彼方が手薄になるのではないでしょうか」
「二人共ジョルゼンとマルコエルにたる実力があると思うのだが?」
「畏まりました」
「伝令は私が出そう」
もし三人の誰かが裏切っていたとしても手元に置いておく方がいいだろう、テシウスを守れるなら……
指笛で呼ぼうとしたその時一羽の鳥が飛んでくる。
「ん?ノエルではない!」 どう言う事だ……これはジョルゼンが使っていた鳥ルルだ。
”約一ヶ月前”
夜の城内の森走る足音を聞いたジョルゼン、賊かと思い足音を追って行き弓を射る音を聞いた。
音とともにバサバサと何かが落ちて来た、それは陛下の伝令に使うノエルだった。
「あれは! マルコエル」 思わず声を上げそうになったが声を呑み込む。
マルコエルは弓の名手だあの程度なら意図も簡単に撃ち落とせる、飛ばしたのはテシウス様か?
一体何を陛下に伝えようよしたんだ。
その後テシウス様に何を伝えるつもりだったのか聞こうとしたが二人っきりになるチャンスがなかなか訪れなかった、と言うよりマルコエルがそのチャンスを尽く(ことごとく)邪魔された、明らかにわざとだ。
部屋を出る時に小さく折った手紙を落として部屋を出る事にした。
”テシウス様、ノエルを陛下に飛ばしたようですが何か急ぎの伝令があったのでしょうか?
それとノエルですが、マルコエルによって撃ち落とされました。マルコエルに不審な動きがみられます私に出来る事があれば部屋を出る時に後ろ手に返事を頂きたい”
だが、テシウス様からの返事はなかなか貰えず、もしかしたら私の事を疑っているのだろうか?
67面
ジョルゼンから手紙を貰ったテシウスだが素直にそれを信じる事が出来なかった。
「イクシスに相談してみようか……」
指輪にそっと口付けた。
イクシスのスペクルムが淡く光った。
「テシウス?」
「イクシス、僕だよ」
「陛下に連絡が付いたんだね、ちょっと遅いから心配していたんだ」
「イクシス、違うんだそっちに行ってもいい? 今なら二人が訓練中なので時間が取れるんだ」
少し慌てた様子にテシウスに何かあった事は明らかだった。
「分かった移時図書室で待ってるからおいで」
五分も掛からないうちにテシウスが来た。
「どうしたんだい?何があった」
「僕、僕どうしていいか分からなくて」
少し涙目のテシウスをそっと抱きしめた。小さな身体は震えていた。
「何があったか話してくれるかい」
小さく頷き一枚の手紙を差し出した。これは! 判断に迷うのは当然だ自分でも判断に困るだろう。
「これは判断に迷うね」
「そうなんだ、父上は誰も信じるなって言ったどうすればいいんだろうイクシス」
「テシウス二人を見ていて何か感じた事はあるかい?なんでもいいんだ小さな事でも」
「うーん、特に変わった様子はないと思う」
「そうか、でもノエルが帰って来ていないんだね?」
「うんまだ帰ってない」
「帰ってないのならジョルゼンの手紙は本当なのかもしれないね、賭けてみよう。但し慎重にね、必ず移転魔法陣の側で対応する事。この手紙はどうやって貰ったの?」
「ジョルゼンが部屋を出る時にそっと落として行った」
「じゃあテシウスは返事を書いてそれをジョルゼンに渡そう」
「返事を書くの? なんて書けばいいの?」
「そうだな……陛下に会いたいから連絡したんだけどとだけ書いて渡してみようか」
「分かった」
「返事が来たらまた教えてくれる?」
こうしてテシウスは帰って行った、顔は不安で一杯の様だった。
帰ってきたテシウスは書いた手紙を小さく折って手に持った、もうすぐ二人が昼食の準備が出来た事を伝えに来る頃だ。
程なくして二人が呼びに来た「分かった行くよ先に行ってって、すぐ行くから」
二人が背中を向けた瞬間さっと走りジョルゼンの手にサッと渡した。一瞬ビックとしたジョルゼンだったがすぐ理解したのか何事もなかったかの様にそれを受け取った。
部屋に帰りジョルゼンは小さく折られた手紙を見た。
「陛下に会いたい」 か
大きな進展をもたらすような内容ではなかったが返事が来たという事は少しは信頼をしているという事だろうとジョルゼンは解釈した。
”陛下には私から伝令を出しましょう”
ジョルゼンはテシウスに返事を出した。
68面
その後陛下に伝令を飛ばした。
”テシウス様が陛下に会いたいと、ノエルを飛ばしたのですがマルコエルによってノエルを射られテシウス様の手紙は届いていないと思います。時間を作ってこちらに来て頂けませんでしょうか”
”分かった二、三日中には行く”
陛下からの返事がきて、そこでテシウス様と二人になる機会を伺った。夕食時少し外すとマルコエルが席を外した隙を見て陛下からの返事を報告する。
「テシウス様お食事中失礼します、陛下からの返事です。二、三日中には来られるそうです」
「ありがと、ジョルゼン」
一方イージス中央宮殿では
「セスウス明後日ホウブルへ行く」
「何かありましたか?」
「いや特に何かあった訳ではないが前回一ヶ月後にまた来ると伝えて帰った。それと護衛騎士を交代させる明後日は私と一緒に二人を連れて行くジョルゼンとマルコエルは入れ替わりでこちらに来させる」
「畏まりました」
頭を下げたセシウスの口元が歪んだ。
ジョルゼンからの返事をもらったテシウスは早速イクシスへ連絡を取った。
「イクシス、明後日父上がこちらに来るんだ。こちらき来れる?」
「ああ、行けるよ。なかなか連絡がなかったから心配していたんだ、じゃあ明後日」
「イクシス、図書館に移動してきてくれる?午後から父上が来るよ」
「分かった」
ようやく陛下に指輪とスペクルムのペンダントを渡すことができそうだ。
イクシスは出発の準備を始めた。いきなりスペクルムがパッと光る。手に取り映し出された物を見て慌てた。
やはり裏切り者がいたか。まさかマルコエルが裏切っていたのか……
「どうしたんだ?イクシスそんなに慌てて」
「テシウスのところに行ってくる」
「午後じゃなかったか?行くの」
「イージスで内乱が起きたテシウスを守らなければ」
「僕も行こう」 ハントが言った
「いや、大丈夫だ一人で行った来るよ」
イクシスはテシウスの所に急いで移動した。ちょうど図書室で本を読んでいたテシウスはいきなり現れたイクシスにびっくりした。
「え!!どうしたの?午後からの約束だったよね」
「テシウス落ち着いて聞いて」
只ならぬ気配に息を呑んだテシウス……まさか父上に何かあったのか!
「イクシスもしかして父上に何かあったのでしょうか?」
少し躊躇いながら声を殺し話し始めた。
「内乱が、内乱が起こったようです。陛下の意向により私はテシウス……貴方を守らなければなりません、今からコーライズに一緒に行ってもらいます」
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まだ幼い少年にとってこの事実を受け止める事がどれほどの心の負担になるか。
「イクシス?父上は今どうなっているのですか?」
小さな身体を震わせて目に涙を溜めて必死に平常心をたもとうしているのが分かった。
「よく聞きなさいテシウス、今は何も出来ない。それは君がまだ幼いからだ、今は耐えるしかない大人になって力を付けなさいそして仇をとるんだ」
仇、と言う言葉に父上がもしかするともう亡くなっているかもしれないと悟った。
「母上とエリーシャはどうなりましたか?」
イクシスは首を横に振る。
「今のところ分かりません」
涙が頬を濡らす、止めどなく流れる涙を見てイクシスは心臓を掴まれたように苦しくなった。だがここで躊躇していたらテシウスも守れなくなる陛下と約束をした以上彼を守らなくては。
「イクシスこっちに来て」
涙を拭うテシウスに手を引かれ扉の前まで連れて行かれた、テシウスは鍵を取り出し鍵を開ける。
「この部屋は禁止書籍が置いてある部屋だよ、内側から鍵は掛けれるけどこの鍵がないと外からは開かない、そしてここには移動魔法陣で移動できるんだ」
顔を上げ涙で赤くなった瞳には強い決意が見て取れた。
「テシウス何を考えてるんだ?」
「ここから逃げなければいけないのは理解しているよ、ジョルゼンは僕の味方なんだ。あれから何度かやり取りをしてる……ジョルゼンに言ってからここを出たい」
一刻も早くここを離れたいが......
「分かった、ここで待ってるよ行っておいで」
力強く頷き移動魔法で消えた。
部屋に移動してきたテシウスは書斎のデスクの引き出しを開ける、奥にあるボタンを押すと
カチッと音がした。一番下の引き出しの鍵を開けその底板を取った、そこには一本の短剣がある。
持ち手にイージスで取れる希少なユフランと言う宝石が嵌め《は》込まれているそしてイージスの紋章。
”いいかテシウス、この探検は代々このイージスの国王に受け継がれてきた短剣だこれを持てるのは王家の長子、すなわち第一継承権のある者だけに伝わる物だ”
父上が言っていた、私が物心ついた頃に私に託された物だこれだけは持ち出さなくては。
これは私がイージスの第一王子である事の証明になる将来必ずここの戻ってくるんだ。
コンコンコンノックの音がしてジョルゼンの声がした。
「テシウス様」
テシウスはビックと身体を震わせた、ジョルゼンだけだろうか?少し躊躇って
「マルコエル?」
「いえジョルゼンです。マルコエルはいません」
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テシウスは急いでドアを開けた。
「ジョルゼン、内乱が起きたみたいだ父上が……」
一瞬息を呑んでジョルゼンは部屋に入り慌てて扉を閉めた。
「テシウス様、今どの様な状況か分かりますか?イクシス様から何か連絡があったのでしょうか?」
「イクシスが迎えに来たんだ」
「今どちらにいらっしゃるのですか?」
「それ、それは言えないけど……父上が」 涙が流れそうになるのを必死にこらえた。
外が騒がしいドタドタと足音が響く、バーんと扉を蹴破る音とともにマルコエルが入って来た。
「テシウス様!! ジョルゼン!テシウス様から離れろ」
「え!!」 テシウスはジョルゼンの顔に目線を向けた。
どう言う事なんだマルコエルが裏切っていたんじゃないのか? 次の瞬間マルコエルが剣を抜きジョルゼンへ切りかかった。
「テシウス様お逃げ下さい、ここは私が食い止めます」
「テシウス様コイツの言う事は聞かないで下さい」
一体どっちが味方なんだ。
二人の剣がぶつかりあう、木剣で剣を交える事はあったが真剣での勝負は初めてだった。
お互い視線を外さず剣越しに睨み合っていた。
「早く、テシウス様」 ジョルゼンの言葉にハッとした。
急いで短剣を持ち魔法陣を出しイクシスが待つ禁止書籍がある部屋へと移動した。
光を放ちテシウスが移動して来た。
「イクシス大変だ、ジョルゼンとマルコエルが……」
息を切らし涙目で必死の形相だ。
「テシウス落ち着いて」
「ここに居たらどうなるか分からない、今僕たちにできる事はないと思う。離れたくないけどコーライズに連れてって」
「分かった、行こう」
そうして二人はコーライズへ移動した。
移時図書室へ移動して来た二人。
「悔しくて悔しくてたまらなかった、何もできない自分が情けない」と肩を震わせて声も出さず泣いているテシウスをイクシスはそっと抱きしめた。
テシウスはその暖かな胸に顔を埋め声を出して泣く事しかできなかった。
ヒックヒックと泣きじゃくるテシウス
「落ち着いたかい?」 優しく声をかけるイクシスに小さく頷き涙を拭った。
「テシウス、まず何故僕が君の所に行ったかそれから話をしようか」 また小さく頷くテシウス。
「このスペクルムに映ったんだ。君のお父さん……陛下は君の所に騎士二人と馬を走らせていたようだった、そこで何者かに襲われる様子が見えた。次に映ったのは」
そのさきの言葉を遮って
「父上はもう亡くなっているんだね、多分母上も妹のもエリーシャも……大丈夫必ず僕はイージスに戻るよ、そして父上の無念を必ず果たす。仇をとる」
その言葉にはハッキリとした意志を感じた。
ここまでのスペクルムを読んで頂きありがとうございます。
1面〜70面迄を 第一幕とさせて頂きます。次回より 第二幕の始まりになります引き続き読んでいただければ幸いです。




