スペクルム ” 印を持つ者と7人の魔導師達”
71面より第二幕の始まりです、第一幕では印を持った者の誕生、絵本に描かれた真実、そしてイージスの内乱など描いた来ました。
第二幕では、それぞれの立場と成長・新たな出会いと大陸に異変について書いていこうと思います。
”第二幕の始まりです”
71面
「フェルゼン、そこのお皿を取ってくれるかい」
「うん、はいイクシス」
フェルゼンはあくびをひとつ、イクシスにバレないように顔を下に向けて声を抑えてした。
「眠れなかったのか?また」
「夢を見たんだ、あの日の夢を……また」
あれから二年か……
あの日、私達はあの城から逃げた、その後半年ほどしてあの城に二人で行ってみた。
部屋は荒らされていてテシウスの書斎には血痕らしい跡が残されていた。ジョルゼンとマルコエルのどちらかの血痕なのだと思った。でも死体はなくその後どうなったかはわからないままだ。
それ後テシウスと話し合い名前を変える事にした。
彼は ”フェルゼン” として生きることとした。
彼の存在を知るものは少なかったが話を聞く限り二人のうちどちらかが裏切っていたのは明らかだ、幸い存在を知る者はほとんどいないらしい。
「さあフェルゼンまず朝食にしよう。週が変わったら二人に逢いにフィヨルドに行くよ」
「うん、頂きます」 「頂きます」
二人に逢いに行くことが今は一番の楽しみになっている、あの日の記憶が薄れてくれればいいのだが……
「そうだ次は自分の姿を隠す魔法の練習をしてみようか?」
「え!本当に」
「ああ本当だ」
「楽しみだ、なんかワクワクする」
「できる魔法が増えると嬉しいよね」
彼は頷き黙々と食事をした。
“ここはフィヨルド”
トントンカシャ トントンカシャ 規則正しい音が響く。機織り機の音でが響く。
この国の王室では王女が七歳を迎えた誕生月の満月の夜、婚儀の際身に纏う(まとう)ドレスを作るため絹糸で布地から織る伝統がある。
母らか子へ、年月を掛け仕上げる。そして胸に自らの印華を刺繍するのだ。
六月生まれの双子の王女は、姉のソニアが桔梗 妹のマリールがピンクの百合になっている。
そして七歳になった二人に神々の島より神官がやってくるのだ。
「お姉様、週が替わったらテシ……フェルゼンとイクシス様が来ますね」
「ええ」
「今度はどんな魔法を教えて下さるのかしらとても楽しみですわ」
「それと雨の季節が過ぎたら神々の島から神官がやってくるのでしょ、炯眼式ってどんな事をするのかしら」
「禁止書の本を読まなかったの?本に書いてあったわよ。マリールは肝心な所がいつも抜けているわ。それといい加減慣れなさいフェルゼンよ」
「分かってる、でも名前を変える必要あるのかしら。それと”いつも”は余計じゃないかしら」
少し拗ねたようにフンと鼻を鳴らした。
「国交がないイージスの事は分からないわ、けれど彼にとってそれは……私達の想像を絶する経験だったと思うの」
「……うん」
「午後から禁止書籍がある部屋へ行きましょ、一緒に見てあげるから」
「ありがとう......お姉様」
仕方ないと言った顔でソニアはマリールを見た。
「この本よ炯眼式の事が書かれているのは」
”炯眼式”
七歳を迎えた月。朝の日を受けて輝くスペクルムに映し出す印を持った者を包む光と満月の月光によって己の運命を見ることが出来る様になるだろう。
「朝早くから儀式があるのね……朝日なのに満月って、何か変じゃない?」
「そ、そうね」
「お姉様もよく分かってないんじゃ……」
「きっと朝から夜までって事よ、うんきっとそう」
二人は顔をも合わせくすくすと笑った。
あっという間に週が替わりイクシス達が来る日
「いらっしゃませイクシス様お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
「お久すぶれです」「こんにちは」
「イクシス様、フェルゼンご機嫌様」
「ソニア様マリール様ご機嫌麗しゅうお過ごしでなによりです」
そこにいた全員があまりにも丁寧な言い方に思わずフェルゼンに目がいってしまった。
「い いきなりどうしたの?フェルゼン?」 みんなが不思議そうに彼を見つめた。
72面
視線を集めたフェルゼンだった、何やらバツの悪そうな顔に目が泳いでいた。
沈黙の中イクシスが 「じゃあ移動しようか?」
「では、あたし達はこれで」 そう言って護衛騎士が部屋から出て行った。
「フェルゼンどうしたの?何かあったの?」
「いや、特には……でも……僕はもう王子ではないからそれに、二人はこの国の王女だから」
握りしめた拳が少し震えていた。
その言葉は今の自分たちの立場の違いをハッキリ認識したものだった。
双子の王女もこの言葉の意味がフェルゼンと自分達の間にきっちり線を引いたようで嫌だった、二人の肩がかすかに震えているのが分かった。
そうかもうこの子達は違う世界で生きているのか……
「始めよう」
「はい」 その声には覇気がなかった。
「ほら 元気出して……ね」
赤くなった目尻には涙が滲んでいた、手で拭って微笑んで頷いた三人の想いが理解できるから胸を重たい何かがのしかかったみたいで苦しかった。
「まずやってみるからよく見ててね、”主たるイクシスが創る我の姿を隠す陣”」
イクシスの髪が黄金色から大陸に一番多い髪色の黒の変わっていった、目を開けると虹色だった瞳が薄い茶色になっていた。
「あぁー変わってる」「ほんとね」「すごいわ」
「城外に出れるかしら、出れるね」
三人の声が重なった。
「君たちは同じことを考えているんだね」 少し揶揄うような言い方で牽制をかけた。
「分かってる、三人だけで城外に出る事はないわ」
「当たり前だ!!」
「早く魔法陣教えて!」 イクシスは大ききため息をついて呆れていた。
「やれやれ……説明するよ、まず自分の姿を包むベールの陣を描くよ次に目と髪の色を決めて水で薄める感じに仕上げる、こうだ」
「目の色を他の色に変えてもいい?」
「いいよ、何色にするんだい?」
「お兄様と一緒にしたいの、綺麗な空の色なのよ」
「私もそれがいい」
「フェルゼンはどうする?」
「僕は黒、目も髪も……イージスの人達は大体黒だから」
「うんやってみよう」
その後三人は何度か試してみた、自分が思った色にならないようでなかなか苦戦していた。髪の色や瞳の色が目まぐるしく変化していくのが妙におかしかった。
その後ようやく納得いく色に出来上がったらしく三人は変わった自分の姿を鏡で見て満足そうに頷いていた。
「ふふ、納得いったか?」
「うん」 また三人同時に返事をする。
「三人は気が合うんだね」
「そうですわ、何年も一緒に魔法の勉強してますもの」
「勿論です」
その言葉がフェルゼンにはとても心強かった。
「イクシス僕もう少しこの魔法練習して……」
「ん?」
「何でもないよ」
「そろそろ帰ろうかフェルゼン」
「もう帰ってしまうのですか?」
「また来週ですね」
「そう言えば来月は私達の誕生月ですの、それで炯眼式があってお父様に聞いてみるのでもし許可が出たらご覧になりに来てくださいますか?」
「炯眼式?ですか」
「ええ」
「フェルゼンは知っていますでしょ」
「聞いた事ないけど、それは何?」
「イージス国に教会はあるでしょ、そこでスペクルムに映し出される自分の運命を見ることが出来るようになる儀式ですわ」
フェルゼンは今の話を聞いて心臓がドクドクと騒がしかった、今まで北の別荘の城内しか知らなかった、父上からは一度もそんな儀式の話は聞いたことがなくて……イクシスの顔を思わず見てしまった。
「その炯眼式に是非参加したいと陛下に伝えてくれるかい?」
「いいですわ」
73面
二人はコーライズに帰ってき来た。
「さっきの話だけどフェルゼン、君はその容姿から隠されて育てられた、陛下から今まで儀式について一度も聞いた事が無いのは当然だよ」
「ソニア達の話だと生まれて三ヶ月の時に神々の島から神官が来て祝名を賜るって」
「フェルゼンに祝名は無いよね」
「イージスには祝名?って制度自体はないよ、父上も母上も妹のエリーシャにもなかった」
彼の存在を隠したかった陛下としたら神々の島の神官を国内に受け入れる事はなかっただろう、当然祝名など賜るはずも無いよな
「フェルゼンもし炯眼式に参加出来なかった時は姿を消して観に行こう」
「イクシス姿を消すって?さっきの姿を変える魔法ではないの?」
「勿論違う」
「その魔法教えてくれるの?」
イクシスは静かにだがしっかりと頷いた。
フェルゼンは祝名を与えられなかったことより新しい魔法を覚えられる事の方が遥かに嬉しかった。
「イクシス、もしフィヨルドに招待されてもその魔法教えてくれる?」
「……理由を聞いてもいいかい?」
「イージスに行きたいんだ……どうしても」
「行ってどうするの?フェルゼンあれから二年だ。君は名前も変えた。半年後に城に行った時誰かの血痕があったけど何も無かったよね、まだ何かやりたい事でもあるの?」
フェルゼンはイクシスに自分の部屋に来るよう促すた。イクシスはフェルゼンの後を何も言わずついて行き部屋に入って行った。
「どうしたの……?」
フェルゼンは無言で机の引き出しを開け一本の短剣を出してきた。
「これは父上から頂いた物だ、王家に伝わる短剣で王位を継承する者だけが持つ事ができる、ここに付いている石……ユフランって言うんだ。この宝石は稀少でイージスでしか採れない。これが無いと王家の地下にある宝物庫に入る事ができない、半年後に行った時部屋が荒らされていただろ多分この短剣を探していたんだと思う。
イクシス、僕はジョルゼンかマルコエルのどちらかが生きてると信じてる、ただ、どちらかが裏切っていた事も事実だけど……探したいんだ」
「もし探し出せたらその後は?どうするの」
「……まだなのも考えてない、知りたいのは真実だけだ」
静寂が二人の間を包んでいた、イクシスはフェルゼンにどう言えばいいか何を言えばいいのか浮かんでこなかった、ただ一言
「うん」 としか言えなかった。
二週間後、フィヨルドに来た二人。
「イクシス様フェルゼン、父上に聞いてみたのだけど炯眼式の日は限られた王家の者しか参加ができないそうなのなのでごめんなさいお呼びすることができないわ」
「大丈夫ですよお気遣いなく」
「見て頂きたかったのですが残念です」
それから前回のおさらいを三人で試した自分が思うように色を変える事ができ尚且つ《なおかつ》素早くできるようになり満足いく結果だった。
二人は城に帰ってきた、帰るなり
「イクシス、姿を消す魔法陣教えてくれるよね」
なんだ、その可愛い顔は!! 罪だ
「おっほん、分かってる約束だからね」
姿をけす魔法陣を教えた。途端に練習をし始めた、待っていたかの様に。
「知りたかったんだね……」
こちらに少し潤んだ瞳を向けて微笑む彼の顔は言葉では言い表せないほどの想いを含んでいた。
「イクシス、一緒に行ってくれるよねイージスまで」
「……ああ、他の六人にも相談してからでいいかな?僕一人じゃなくもう一人二人一緒に行きたいんだ、人数が多くても少なくてもダメな様な気がする」
頷き「任せるよ」一言だけ言った。
74面
”トゥーリス国”
この国にも印を持った者が生を受けている、この国の第一王子である。名は カロッサ・テリサス・トゥーリス。
この国では印を持った者が生まれた事も何処かの国から嫁いで来た者が居たわけでもない。なのに?産まれたのだ、印を持った者が。
ただ、自分が魔法が使える事を知らなかった。誰も教えてくれる者が居なかったからだ。
剣術を磨いた、書物を読む事も好きで当然博識であった。誠実で明るい王子。
「カロッサ、もう時期神々の島から神官が来る、炯眼式の為だ」
「はい父上」
この国の貴族は自分の色を持って産まれて来る、そしてその色でマントを作るのだ。当然王子である彼も例外ではない。が、しかし彼の色は虹色だった。
この国にはいない稀有な存在であったが東のイージス国のように隠される事なく育てられた。
そして彼のマントの色は瞳の色ではなく髪の色の黄金に決まった。
この国には四百年ほど前に印を持った者が存在した。この事実はこの国の図書室の禁止書庫に収められていた。
どこから来て誰と婚姻を結んだのか全て。
”四百年前のフィヨルド”
「母様、このお花見て!とっても綺麗」
「本当ね、綺麗」
「お花の名前は?」
「すみれ ね」
彼女はこの城で働く王女の乳母であるリラの娘の子供である父親は国王の三男だった。普通の従者の子供より待遇はかなり良かったが三男である父親には何も無い。
これが貴族の世界である。
ある日、城で行われたガーデンパーティーで事件が起きた。
この日は第一王子の誕生会、交流のある他国の王族と数人の貴族が招待されていた。その中に隣国であるトゥーリス国とサジュアル国も当然招待された。
「本日はおめでとうございます、この度は招待して頂き誠にありがとうがざいます是非我がサジュアルと縁を結んで頂きたい」
「いやいや、そこは我がトゥーリスと是非」
「まぁ、まずは顔合わせをしてからお互いの気持ちが何よりでしょう」
「姫様、そちらに行ってはいけません」
「なぜ?今日はお兄様の誕生会でしょ、私は行ってはいけないの?」
「今日は我慢なさいませ、姫様のお姿を他の国の者に見られる訳にはいかないのです」
それは、私の目や髪の色が他の人と違うから? 聡い彼女はその理由が分かっていた聞かなくとも……
すっと彼女の瞳が暗く陰り俯いたとても寂しそうに。 侍従に連れられ奥の庭へと去って行った。
シルバープリペットが美しく映える丹精に手入れされている植垣が中庭を囲うように造られている、その側で数人の男の子達が遊んでいた。
ドンっと押され一人の男の子が植垣の外へと転がって行った。
「痛い! うーん」
頭を抱え閉じた瞼をゆっくり開けた。そこにはさっきまでとは全然違う景色が広がっていた。
「ここ、何処……」
すっくと立ち上がり服に付いた砂埃を払う、無性に駆り立てられた好奇心。自分の横にある植垣から転がってきたのは間違いなく判っていたのだが、反対側にある植垣の向こうが気なって仕方なかった。
何も考えずその植垣の下をくぐり抜け反対側へ。
ガサガサと音を立て小さな男の子の顔が垣根から覗く。
まだ幼いが端正なその顔には気品が溢れている、薄茶色の髪と空のような青い瞳がそれをさらに引き立てている。
「あっちに何があるのかな?」
75面
小さな身体を揺らしながらトコトコと庭を歩く一人の少年花壇には季節の花が咲き乱れていた。
ザァーと風が吹いた、目の前に花びらが舞う一瞬にして花の香りに包まれる、舞い上がる花びらに天を仰ぎ見る視線を戻したそこに一人の少女が立っていた。
二人の視線がぶつかる、幼い二人は見つめ合いお互いが微笑んだ。
「あなたは誰?何処から来たの?」
「僕は……」 言いかけたその先の言葉が出てこない。
今まで見た事がない髪色だった、太陽に照らされたその髪は黄金色に輝きまるで絹のようにしなやかに風に舞っていた。そして瞳は虹色に輝いていて、まるでそれは宝石のようであった。
彼女はゆっくりこちらに歩いて来た、ニッコリとした目はまるで三日月の様に弧を描いていた。
彼女は手を差し出した、その手と彼女の顔を行ったり来たり何度も見た、そして手を差し出した。
「行きましょう」
「え!何処に?」
何も言わず手を引かれ連れて行かれた城の角を曲がった先に小さな庭があった、そこにはブルーの花柄のシートが敷かれていた。
「ここに座って」 そしてまたニコリと笑う。
「うん」
「ここで絵本を読んでいたのよ、一緒に見よう」
「ひ、姫様……この子は?」
後ろからの声にハッとして振り返った。
「ぼ、僕はトゥーリスの第一王子だよ」 はっ!しまった自分の事を話すなんて
「私はこのフィヨルドの第一王女よ」
「姫様!」
「いいでしょ、彼も自分の身分を言ったのだから」プーっとほっぺを膨らませた横顔を見て思わず笑ってしまった。
「ははは」 そして彼女も笑った。
その後彼女が特別な容姿だということが両国に明らかになる事となった。全ての偶然が重なった出来事だった。
そして第一王女はトゥーリスの第一王子と婚約をすることで話が進んでいた、がそれに納得しなかったサジュアルは豊富な資源を交渉の材料としてこちらに嫁がせて欲しいと言ってきた。
どちらの顔も立てたい王は第三王子の長女をサジュアルに嫁がせる事で話を付けた。
トゥーリスに嫁いだ王女は王子二人と王女一人を産んだが三人にはその印が受け継がれなかった。一方のサジュアルは王子一人と王女二人を儲けたそのうちに王女一人が印を持って生まれた。
だが幸せは長く続かずサジュアルは内乱によって国内が混乱した、当時の王はその座を追われた王妃も子供達も皆処刑されてしまった、しかし第二王女で印を持った彼女は密かに助け出され国外に逃れた。
どんな経緯でイージスまで行ったのかは誰にも分からないがイージスに印を持った者の血が入ったのはこの頃だった。
こうして大陸のどの国にも印を持った者が産まれる可能性があることになる。
”コーライズ”
「陣はこうだよ、少し今までとは違って細かい陣になってるよく注意して覚えて」
「色を変える陣と似てるんだね」
「そう、だから間違えないでね、小さな陣が間に入ってるんだ」
「完璧になったら行ける?」
「そうだね……できればフィヨルドに行く前に城に行って使ってみたい」
「どうして?」
「城だと人が居ないだろ、フィヨルドだと人が沢山いるだろましてや炯眼式だいつもより警備が多いはずだ万が一失敗しても城なら人は居ない」
「そうか!」
二週間の練習の後城に向かう日が来た。




