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第39話 土の大精霊にも憑りつかれた男は食券至上主義を掲げてみせた


「あのなぁ、あの丸薬はそのまま飲むもんじゃないぞ。

そのまま飲むなんて自殺行為だ。」

「自殺行為? 」


首を傾げる、おねぇ。


「通常はあれを適度に焙って、高貴な香しい加齢臭をある程度飛ばしてから飲むんだ。

そうすれば何とか飲めるぐらいにはなるはずだ。

それをそのまま飲ませるなんて、あんたら患者を殺す気か。」

「そっ、そんなぁ、知らなかった・・・・・・・」


俺の言葉に急に萎びたように項垂れる、おねぇ。


「あの丸薬をそのまま飲んで患者さんにあまり効かなかったのは、丸薬の効果と高貴な香しい加齢臭の毒が体の中でせめぎ合って、薬効と毒のつり合いが取れた結果というところじゃないか。」

「じゃぁ、丸薬を焙ったやつを飲ませれば特効薬とはならずとも、繰り返し飲み続けることで快方に向かったかもしれないということね。」

「断定はできないけどな。

でも、猛毒の高貴な加齢臭を直接体に取り込んでも具合が悪くはならなかったんだろ。

むしろ少しは具合が良くなったかもと言ってたよな。

それから考えると丸薬に含まれる聖なる泉の成分がその患者に効くって可能性はあるなよな。」

「そうだったのね。」


あの丸薬が患者に効くかもという俺の見立てに嬉しそうな顔に変わる、おねぇ。


「ただし、あの丸薬を闇雲に過熱して高貴な香しい加齢臭を飛ばせばいいっていうもんじゃねぇぞ。

加熱することで徐々に聖なる泉の有効成分も少なくなっていくようなんだ。

その加減が難しいんだぞ。」


"伊達に何年も大魔王の加齢臭を浴び続けているわけじゃねぇってかぁ。"


「やけにあの丸薬に詳しいのね。」


探りを入れるようにそう俺に尋ねてきた、おねぇ。


「まぁな。

実は俺はとある教会の治療院で治療師見習いをしているんだ。

その仕事の一環として、丸薬の過熱とそれを用いた治療を担当しているんだ。」

「えぇぇぇぇ、そうなのぉ。

それは凄いわね。」


俺の話を聞いたおねぇは驚きの表情の中に目がきらりと一瞬光ったような気がした。


'フンよ、こっちが情報を探っておるのに、逆に自分の素性をぺらぺら話してもいいんじゃろうか。'

"確かにな、まずはおねぇ側の情報を吐き出させねぇとな。。

これまでわかった情報はっと、レーミヌイの密偵であるおねぇの関係者の具合が悪くなったので、噂に聞く生の大魔王を飲んだ勇者だったということだよな。

そうなるとその具合が悪い関係者っていうのが問題だよな。

それがレーミヌイの上級貴族だったりすると厄介だな。

下手をすれば大魔王を使って治療できるシュウが攫われるかもな。"


えっ、そうなの。


'まぁ、あの丸薬の治療はヒルギー王国内では広まりつつあるのじゃろ。

この場でフンが連れ去られるような事態にならなければ、丸薬の扱いに詳しい者というだけではフンを探し出すことは難しいのではないか。

フンを探し出すよりもそれと同じぐらい丸薬の治療に長けた別の治療師を探し出して、そやつをレーミヌイに招いた方が早いじゃろ。

とにかく、こちらの情報はあまり出さずに、おねぇ側の情報をもっと引き出すことじゃな。

ほれ、その具合の悪い生の丸薬を飲んだという勇者の正体を聞いてみるのじゃな。'


"身分の高いものだったらもっと丸薬の取り扱いについて教えてやれば褒美がもらえるかもよ。

おねぇを拉致してきた罪はチャラにした上でな。"


なぜかにやにやしながら具合の悪くなった者を聞き出せと提案してきた、怨霊様。


わっ、わかった。

褒美かぁ、食券一年分とかかぁ。


'褒美と聞いて金や地位ではなく、教会の食堂の食券にしか結び付けられぬとはさすがフンじゃな。'


そんなに褒めるなよ。


'誰も褒め取らんわぁ。'

"今のどこに褒め要素があったってんだぁ。"


「あぁ、ところで生の丸薬を飲み込んだという勇者はいったい誰なんだ。」

「それは・・・・・・」


俺の問いに口籠る、おねぇ。


"おっ、おねぇのその様子からすっとやっぱりやんごとなき身分の奴かぁ。"

'まぁ、そうじゃろうな。

こんな辺境の山での聖なる泉の捜索に国のお抱えの密偵を多数に派遣できるぐらいはな。'


食券2年分ぐらいは個人的な小遣いで払えるぐらいのえらい奴か。


"だからぁ、財産を食券で計るのはやめろってぇ。

お前とゲーザ以外はどのくらいの金持ちかわかんねぇって。"


食券2年分ぐらいもらえるなら俺が治療に行ってもいいかな。


"食券2年分で身売りすんのかぁ。"

'食券2年分で身売りするとはのぉ。

それがどのぐらい安い奴なのか全くわからぬのじゃが、まぁ、最低賃金をはるかに下回るのは間違いなかろうて。'


食券2年分だぞ、2年分。

そんな高価な資産は見たことねぇぞ。


"教会の応接室に飾ってあるツボよりもはるかに価値がねぇ事だけは間違いねぇぞ。"


何を言っているんだ、怨霊様。

壺で腹は膨れねぇ。


'あぁ、フンよ、食券の件は良いからその勇者がだれかちゃんと聞き出したらどうじゃ。

食券の価値についていくら熱く語られてもフンとゲーザとやら以外には理解できないのじゃ。'


わかったよ。

報酬が食券だったとしても分けてやんねえからな。


"だからぁ、食券なんて欲しのはお前だけだってぇの。

それよりも早く患者の情報を聞き出せって。"


「あぁ、ものは相談なんだが。

報酬によっては俺が丸薬を用いた治療をその患者にしてやってもいいぞ。」


"だからぁ、報酬の話じゃなくてまずは患者がだれかだろうがぁ。

お前、マジで食券が絡んでくると我を忘れてぐいぐい行くよな。

その底なしの欲望をなんでおなごを押し倒すことに費やさねぇかなぁ。

食欲だけでなく性欲も満たしてこその人生だろ。"


とにかく優先すべきは食欲だな。


'性欲はこのおねぇで満たす算段なのじゃろ。

すでに取り捕まえておるので、次は食欲を満たすことを考えておるのじゃろ。'


ちっ、ちょっとう、茶色い子さん。

俺はおねぇには全く興味はねぇって何度言ったら。

世間様に誤解を生むような発言はしないで頂戴。


"まぁ、後は食券をゲットすればいいってことだよな、シュウ。

おねぇはこの通り好き放題に出来っからよぉ。"


だっ、だからぁ、おねぇはいらねぇって。


「報酬次第では君が治療に当たってくれると言うのね、

如何程の報酬を支払えばいいのかしら。」

「食 (ドガッ) ・・・・・・・・」


俺が言い掛けたときに怨霊様の渾身のげんこつが降ってきた。


"ぜってぇ、食券なんて言うなよ。

まずは患者が誰か確認しろよな。

それからその患者の治療に相応しい報酬を請求すんのが定石だろ。"

'そうは言ってものぉ、フンは食券以上の価値のあるものを知らんらしいしのぉ。'


食券至上主義。


"何をお前は崇拝したんだ。"


食券の祠を作って祀りたい。


"お前以外に誰がそれを崇めるんだってぇの。"

'ゲーザというものがおるらしいではないか。'


ゲーザには触れさせねぇ。


"まぁ、とにかく報酬の前に患者がだれか聞き出せ、いいな。"


へいへい。


「治療に行くかどうか判断するのにいったい患者が誰のか教えてくれないか。」

「それは・・・・・・」


再びおねぇが口を閉じてしまった。



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