第38話 土の大精霊にも憑りつかれた男は勇者を見つけた (もしかして愚者かも)
「あんた、漸く置かれている立場が分かったみたいだな。
じゃぁ、もう一度聞くぞ。
あんたらあそこで何をしていたんだ。
一般人、観光客なんていままでのようにふざけた答えを言ったらこのまま放置して、次の尋問は明日の昼にするからな。
それまで自分がどうなっているかわかっているよな。
それが白日のもとに曝されるんだからな。」
「うぐぐぐぐっ。」
俺の言葉に涙を流して声にならない唸り声をあげる、おねぇ。
「なんだ、まだ話す気になんないみたいだな。
まぁ、俺はそれでもかまわないよ。
それじゃぁ、このまま放置させてもらうよ。
明日の朝にもう一度同じ質問をさせてもらうけど、それまでに考えが変わったら言ってくれ。
俺はあの石の祠で一服しているから、叫べば聞こえるからな。
あっ、その前に氷水を1Lぐらいグビッと行っとくかぁ。
それとも汗をかくぐらい暑がっているようだから、2Lにしておくかぁ。」
俺はそう言うとおねぇに向かってニヤリとした。
"うぁぁぁぁ、完全に悪魔だな、お前。
あの汗はお前の脅しへの冷や汗だろうが。
決して暑いわけじゃねぇぞ。"
'まさに悪鬼とはフンのような奴を言うのじゃな。
それで善行を積んで天国に行こうというのじゃから、なんと厚かましい奴じゃ。
天使が聞いたらへそで茶を沸かしてしまいそうじゃな。'
うるせぇ。
この作戦に二人も同意しただろうが。
'脅したらどうだとは進言したが、悪鬼のごとくそこまでえげつないことを平然とやるとは思わなんだ。'
"遂に本性を現したということだよな。
その悪人面に相応しい本性をな。"
うるへぇ。
とにかく情報を吐かせれば俺の勝ち。
勝てば官軍で、その過程で何をしても許されるってもんよぉ。
"これで明日には無間地獄行きが決定だな。"
'明日なんて悠長に待っていられないのじゃなかろうか、地獄の鬼としては。
今日の夕方にお迎えが来るかものぉ。'
そっ、そんなことはない。
なんせ俺のやっていることは数々の裏仕事で悪行を行ってきた密偵のおねぇを懲らしめているということだからな。
これは神に変わって神罰を与えるという善行だ。
ご褒美として俺は今日の夕方か明日の朝には天使のお迎えが来て、天国に行くんだぁ。
"そんなわけがないな。"
'今日の夕方に天国へのお迎えがご褒美になるのかのぉ。
間もなく死んでしまうのじゃぞ。
いずれにせよフンの行き先は天国ではなく無間地獄へ落とされるのが決まっておるからのぉ、詮無い疑問なのじゃが。'
くううううっ、言いたいこと言いやがって。
今に見ていろ、おねぇに情報を吐かせて天国に行ってやるからな。
俺はそう心に誓いおねぇに背を向けて石の祠に戻ろうとした時だった。
「まっ、待ってぇ。」
おねぇが絞るような声で俺を引き留めた。
「なんだ、やっぱり喉が渇いていたのか。
ちゃんと氷水をたっぷり飲ませてやるから待ってな。」
"なんでこのおねぇはシュウを引き留めたかなぁ。
このままだったら氷水は飲まずに済んだんじゃねぇのか。
そうすれば少なくとも腹を壊さずにいられたのにな。"
'愚かな奴らじゃのぉ。'
愚かな奴らって、おねぇの他に俺もかぁ?
"当然だ。"
'当然じゃな。'
息をぴったり合わせて俺とおねぇを愚か者扱いする、大精霊様たち。
「氷水なんて、いらないわ。」
「じゃぁ、何の用だ。
あそこで何をしていたか話す気になったか。」
「しっ、仕方ないわね。」
悔しさと憎さを合わせたような表情で俺を睨みつけている、おねぇ。
おっ、俺の脅しがきいたのか。
"なんだぁ、もう根を上げたのか。
なさけねぇ、おねぇだよなぁ。"
'レーミヌイの密偵も大したことはないのぉ。'
ちがう、俺の作戦が素晴らしいんだ。
"ないな。"
'ないのじゃ。'
間髪を入れずに全否定してきた、大精霊様方。
とっ、とにかく俺の立てた作戦がうまくいってしゃべる気になったんだから良いじゃないか。
「私たちはこのキレピトイ山脈にあるという伝説の聖なる泉を探しに来ていたのよ。」
「聖なる泉だってぇ。」
"なんだぁ、そのままだったか。
つまんねぇな。"
'それよりもなんでこの山で聖なる泉なんぞを探していたのじゃ。
その前にどうやってこの山に聖なる泉が湧くことを知ったのじゃ。
しずくが引っ張ってきたこの山の聖なる泉はとんでもなく山奥で簡単には見つからないところにあるのじゃろ。'
がっかりした様子の怨霊様と、むしろ疑問が深まったように小首を傾げる茶色い子さん。
"確かにこの山の聖なる泉はシュウの村のやつよりも濃いから効き目が良いって言えば良いんだけな。
でもなぁ、めったに使わないから普段は干上がっているし、ものすげぇ山奥にあるからその存在が知られているといことはありえねぇと思うんだが。"
それに聖なる泉が必要なら俺の村の教会に来て、分けてもらえればいいと思うんだけど。
一国の使者が司教様に正式に依頼すれば、変なことに使わなければ、特に咎められることなく譲ってもらえると思うんだけど。
'それを必要とするものがレーミヌイから動けなかったのかのぉ。
聖なる泉の効能は時が経てば薄れてしまうのじゃろ。'
"それだったらここの聖なる泉もおんなじだぞ。
濃いとは言っても時が経てば効果は落ちるし、その場で飲むのじゃなければそれこそ生の大魔王の方が効き目が高いんじゃねぇのか。"
怨霊様も小首を傾げた。
生の大魔王を飲むなんて、死ぬ気かぁ。
まぁ、その辺もはっきりさせないとおねぇを開放するわけにはいかないな。
俺の言葉に大きく頷く、大精霊様方。
「聖なる泉だってぇ。
何でそんなものをここで探しているんだ。
パーティメンバーが大病にでも罹ったのか。
あれは湧き出た泉をすぐに飲まないと効果が薄れていくんだが。」
「えっ、時が経つと効果がなくなっていくというの。」
俺の言葉を聞いて絶句する、おねぇ。
「それは間違いないぞ。
ヒンギルー王国では割りと常識的な話だぞ。
ヒンギルー王国にある聖なる泉の湧く街に巡礼者が多いのは、聖なる泉をその場で飲むためだとか。
お土産や依頼でそれを持ち帰っても聖なる泉の効果はもはやなくなっているということだけど。」
「そっ、そんなぁ。」
明らかに落胆の表情を見せる、おねぇ。
俺の説明は合っているよな、怨霊様。
"あぁ、それでまちげぇねぇ。
聖なる泉の効果を少しでも長持ちさせるために出来たのがあの生の大魔王だからな。"
'生の大魔王についてこやつらは知らないのかのぉ。'
聞いてみっか。
「聖なる泉をそのまま持ち帰ったのでは効果がなくなるから、丸薬にして効果が持続するようにしたものが教会で販売しているはずだけど、それは試したのか。」
「もちろんよ。
教会経由で何とか手に入れた聖なる泉を混ぜた丸薬を飲んでもあまり効果がなくて。
何度か続けて飲めばもう少し効果が出るかもと思ったんだけど、あの殺人的なオヤジ臭ではねぇ、一度飲んだきりで後は飲んでもらえなくて。
むしろ具合が悪くなりそうだと。」
「まさか、焙らずにそのまま生で飲んだのか・・・・・・・」
俺の呟くような質問に首だけ地面から出したおねぇが大きく頷く。
"生の大魔王を一度とはいえそのまま飲み込んだ、だとぉ。
まさに勇者だぁ。"
'あんなものをそのまま飲み込むなんて、むしろ愚者ではないかのぉ。
おねぇの話の通りに具合がさらに悪くなったのではないかのぉ。'
まぁ、それだけ藁にもすがる思いだっていうことじゃねえの。




